second season

第13話 ラッキータウン遊園地とVWデリバリーバン

 一九六〇年八月、眩い真夏の休日。

 若者と親子連れで賑わうイースリートの行楽地、ラッキータウン遊園地。

 ブリウスはクリシアの手を引き次のスリルと興奮に案内する。

 ゴーカートにお化け屋敷、ウォータースライダーにローラーコースター。


 幼い子供のようにはしゃぐブリウス。

 照れ笑いのクリシア。

 二人はいつも一緒にいる。

 どんな時でもそばにいる。

 出会ったおよそ四年前、密かにデートしたスキャルファ大聖堂の柳の木の下で、二人は手を繋いで永遠の愛を誓った。

 お互いがそこにいる。それが心の拠りどころだった。



 お昼が過ぎ、二人はベンチに座ってサンドウィッチを食べた。

 クリシアの作ったローストチキンサンドは格別だった。


「うんめぇーー!」

「今度はアップルパイ作ってあげる」

「クリシアは料理上手だなぁマジで」

「ふふ。お兄ちゃんが教えてくれたのよ、ほとんど。このサンドも」

「俺にはできなーい。すごいよなジャックは」

「ブリウスは運転が上手だわ。ゴーカートで」

「へへ……本物の車だって運転できるぜ」

「うそぉ、まだ十三歳で免許もないのに」

「九月に十四」

「それでもだめよ」

「へーん。そ、れ、が、できるんだ。ルカおじさんに運転の仕方教えてもらった。小さい車だったらもう足届くし」

「えーっ」と言いながらクリシアはブリウスの口についたマヨソースを拭いてあげる。

「俺は将来レーサーかトレーラーの運転手になるんだ」

「それが夢なの?」

「そうさ。クリシアは? 将来何になりたい?」

「私?」

「教えて。俺きいたことないもん」

「そうね……私の夢……何だろう」


 聞き耳を立て、目をくりくりと輝かせながらブリウスは迫る。

 何故か唇がチュウっと突き出ている。

 ちょっとストップ! とクリシアは手で制しながら、

「私は……歌が好き」と答えた。



 夢を語り合うのは素晴らしい。

 時を忘れ、気持ちが大きくなる。



 お腹いっぱいになったブリウスは立ち上がり、ベンチの横の芝生にごろんと仰向けになって空を眺めた。

 のんびりと漂う雲の流れを目で追った。


「そっかぁ……クリシアはお母さんと一緒なんだ。そっか、歌か……」

 ふと気づくとクリシアがまたうつむいていた。

「……おーい、どした。またポツンとなってるぞ」と言って身を起こすブリウス。

「……え?」

「なーんだ寂しそうな顔して。急に。それお前の悪い癖」

「あ、ごめん」

「笑顔の方がいいんだ、絶対。……さあ、立とう! 次何に乗ろうか、よーし観覧車! 行くぞ、さあ来い」


 ****


 そしてフォルクスワーゲンtype2デリバリーバンが荒野のハイウェイ21を東へ、港町イーストリートへ向かって走っている。

 ハンドルを握っているのはルカ。助手席にはリッチー、後ろにはホウリンとジミー。

 〝ソウルズ〟の四人だ。

 今日彼らが揃ったのはある仕事のため。



 スモークフィルムに閉ざされた車内には乾いた空気とラジオの音楽が流れている。

 ホウリンはジミーに訊ねた。


「なんだこの曲は。誰が歌ってんだ?」

「〝ハートブレイク・ホテル〟エルヴィスの。……は? し、知らねえの? わっ、だっせーっ!」

 思わずのけぞるジミー。

 小耳にはさんだルカが口を出す。

「浮世離れにもほどがあるぞホウリン。エルヴィスは既にアメリカの伝説だぞ。笑わせないでくれよ」

「そ、そうか?」

 リッチーもそう、知ってて損はないぞと頷いて笑った。

 ホウリンは頭を掻き、まあ待てとショートホープをくわえた。

 そして胸にさしたペンをとり、煙草の箱の隅っこにメモをしておく。

「え〜と〜。〝ハートブレイク……エル、ビス〟と! ……ん、これまさか、あれか? ジャックが声真似して歌うやつ。……なあ、それよかリッチー、今度はジャックを連れて行くのか?」

「いや。それはない」

「あいつまたふて腐れるぞ。俺も仲間だろって。ジャックはオレらのこと知ってる。四人揃って行けば勘づかれる。あいつまた車にしがみついて喚くぞ」

 そう言ってホウリンは煙草に火を着け窓を開けた。


 助手席のリッチーは後ろを向き、静粛な物言いで人差し指を立て言った。

「ジャックのところに寄るのは今日があいつの誕生日だからだ」

「……あ」

「忘れるなよ。あいつは今日で十七になるんだ」

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