第11話 永遠の愛

 地下組織ソサエティのメンバー、ハリー・イーグルはハモンド州警察署に勤務している。

 元より素性を隠し十五年、内部の情報を主導者ベルザに流している。



 それはイブの前日のことだった。

 エルドランド中部のハイウェイでカーク・ストーレンという男が車の窃盗及びスピード違反で捕まった。

 しかも所持していた運転免許証は〝ジョージ・パインド〟のものだった。


 ストーレンは自殺の名所アペルヒルズで拾ったと言った。

 ハリーは留置所にブチ込まれたストーレンに会い、イーストリート市警担当刑事のセリーナ・サーカシアンに伝えた。


 アペルヒルズ――そこは樹海。

 ストーレンは死人の遺品を物色するためにそこをうろついていた九月その時、一台のジャガー が入ってくるのを見た。三人の男が降り、別のもう一人の男を車から引きずり下ろした。そのまま茂みの奥へ入ってゆく彼ら。藪の中に潜んでいたストーレンは鼠のように車に近づき、落とされたものを拾い、逃げた。それを財布だと思い込んで、叫び声と銃声に耳を塞ぎながら逃げた――という。



 セリーナと元担当のハリーは直ちに樹海に足を踏み入れた。

 やがてジョージのものと思われる亡骸を発見した。

 白骨化したそれは頭蓋や肋骨が砕かれ、銃の弾丸とプラチナの指輪が転がっていた。

 〝eternal-love Christine&George〟

 指輪に彫られた文字を見つめ、二人はがくりと肩を落とした。


 ****


 そして約束の場所で会うベルザとリッチーたちソウルズ。

 ベルザは先ず、遅れたことを謝った。

 スーツ姿のすらりとした長身から彼は眼鏡越しに四人の顔を確かめ、床に置かれたキーティング・チェストの前に片膝をつき、いたわるように触れた。

 その後彼は立ち、懐から写真を取り出した。

 そこに写っているのは樹海で撮られたジョージの遺骸と指輪。


 ベルザは苦渋に満ちた表情で、ジャックの父親ジョージが無惨な姿で発見された経緯いきさつを話した。

 目頭を押さえながらリッチーは深く大きな溜息をつく。

 ベルザはリッチーに言った。

「……ストーレンは留置場で何者かに殺された。腑に落ちない。我々の仲間であるハリー・イーグルにはストーレンを狙った者と、その証言を元にした事件の真相を追わせてる」

「何故ストーレンは殺された……口封じ?」

「おそらく。今警察内部も調べさせている」

「闇の圧力を感じるが、どう思う?」

 リッチーの指摘にベルザは首肯した。

 リッチーはベルザの目をしばらく見つめ、言った。

「アパート管理人のマルコ・チェンバースから話を聞いた。ジャックは……あんたがジョージに預けたとか?」

 ベルザは頷く。リッチーは知りたかった。

「ジャックは、あんたの子なのか?」

「違う。私の子ではない。ジャックは……戦地で拾った子。孤児だ。父親も母親もいない子供だ」

「……ではジョージとあんたの関係とは?」

「我々と関係があったのは彼の妻クリスティーンの方。彼女がソサエティのメンバーだった」

 ベルザの、チェストを見つめる目と撫でる手はどこか悲しげだった。


「リッチー。君とジャックの出会いは運命といえる」

「運命?」

「実は私はあのレストランで見ていたんだ。君とジャックは出会うべくして出会った。君にこのチェストの在り処を教えたのは君に流れるヘイワースの血と君を本当に信頼してのことだ。これを君になら託せると。そしてジャックのことも……どうかと思っている」

「わからない。どういう意味だ」

「リッチー。どうだ? ソサエティのメンバーにならないか? いや、真に望むのは私の後継者だ。……なってはくれないか?」


 ベルザの突然の話にのけぞるルカたち。

 リッチーは無表情に咀嚼している。

 はめている指輪をさすりながら先を考えている。

 長く経って、リッチーは答えた。


「ベルザ。あんたらソサエティは〝ナピス〟の暗躍を阻止する組織だ。俺は正直係わりたくない。武器商人リガル・ナピス率いるナピス・ファミリーは殺人株式会社マーダー・インコーポレイテッド。危険過ぎる。総帥ナピスは実体のない悪魔とも聞く。そんなに奴をりたいんなら〝ライセンス・トゥ・キル〟か〝ジョーカーマン〟を雇えばいい。彼らなら確実に成し遂げるだろう」

「知っているだろう。ライセンスは獄中。ジョーも足を洗った」

「そんな目で懇願されても俺は殺し屋じゃない。しがない盗っ人だ。デカい地下組織を束ねる器もない。ああ、全く興味がないね。……それより、ジャックの将来をあんたはどう思ってるんだ? あの子のことを真剣に」

「……将来か。あの子は……真っ直ぐな、正義感の強い子だ。そう、ジョージが立派に育てた」

「身の安全を考え預けたのはわかるが、考えたことがあるか? ……俺とは違う。あの子には表通りを歩かせたい」

「……そうか。ジャックは君をとても慕っているように感じたが……そうか」

「あの子はいい子だ」



 ベルザは黙った。

 リッチーは顔を背け、ジャックの未来をただ願った……。

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