『星間航路図』
少年を乗せたシャトルはすぐに目的地に辿り着くことになったのだが、それは意外に早い到着だった。それもこれもパイロットの腕前によるところが大きいだろう。おかげで退屈することはなかったが、その代わり、妙な噂を聞く羽目になってしまった。
曰く、同乗していた若い軍人の男がシャトルに乗り込んだ直後に席を離れたきり戻って来なかったという。しかも、戻ってきた時には一人増えていたらしい。連れが増えたというわけではなく、最初から二人だったと言う者すらいた。結局真相は何もわからないままだが、一部ではその二人が宇宙人だという者もいるそうだ。
確かにそう言われてみればそう思わなくもなかった。その人物たちは銀色の鱗に覆われた肌をしており、背丈はそれほど高くないが、筋骨隆々としているというのである。もちろん根拠があるわけではない。単にそういう噂が流れているというだけのことだ。とはいえ、実際に異星人はいるのだし、ひょっこりと現れることも有り得る。特に辺境では未だにエイリアンに対する根強い偏見が残っている場所もあった。そういった意味ではその話は十分に信じられた。
だが一方ではもっと荒唐無稽なものもあった。その二人のうちの一人には角があったらしいのだ。角と言えば鬼を連想させるが、その目撃談では角を持つ巨人ということになっていた。その話を裏付けるように、彼らの身長は約三メートルほどもあり、その体躯に見合った筋肉質で強靭な肉体を持っていたとされている。「まさかねぇ……」少年の口から独り言が零れた。そんなはずはないと思いつつも心の片隅に浮かんでくるものがある。いや、考えまい、考えてはダメだと意識を切り替えるように首を横に振ってみる。
そんなことをしても、一度頭に浮かぶと消えてくれそうになかった。あの人が?いや、違うよな、絶対にあり得ない。
そう思う反面で、心の奥底から何か得体の知れないものが湧き出てくるのを感じた。
少年の頬に一滴の汗が伝った。
『星間航路図』
銀河系内の星間航宙路を網羅した詳細な地図。
現在発行されている物は二種類あり、一つは『星系版』と呼ばれるもので、全天の半分ほどをカバーする広域的な物と『新天球型惑星圏版』と呼ばれる太陽系を含む星系が記載された物が一般的になっている。なお、星系図は国家機密扱いとなっており一般には公開されていない。
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