星間連絡船
星間連絡船はその名の通り宇宙空間を航行する船のことだ。
恒星間の距離が極めて近いこの時代では、宇宙旅行は珍しいことでも何でもない。
だが、それでも宇宙というものは人間にとって未知の領域であり続けている。
それは宇宙そのものが謎に満ちた空間だからではない。そこに広がるのがあまりに広大な世界であるからだ。その広がりの前に人間は為す術もなく立ち尽くすしかない。その大きさと広大さに比べれば、自分の存在など塵芥にも等しい。その果てしない世界の片隅を、ちっぽけな人間が歩いているに過ぎないのだ。
そんなことを思いながら、少年は宇宙港のゲートをくぐって、外へ出た。
宇宙港は地上数百メートルの高さにある。そこから見える景色を眺めれば、自分がいかにちっぽけであるか嫌でも実感させられる。だが、それは悪いことばかりでもないようだった。
見上げれば、満天の星。手を伸ばせば届くのではないかと錯覚するほどだ。空は無限の黒と無数の輝きに満たされていた。「今日は良い日になりそうだ」そう呟いてから彼は肩のカバンをかけ直した。それからヘルメットを抱えて、宇宙タクシー乗り場の方へと歩いていった。
「やぁ、君。ちょっと待ってくれ」と誰かが呼び止めた。振り返った瞬間に目が合う。そこには男が立っていた。年齢は二十代半ばといったところか。整った顔立ちをしていて、一見したところ人好きのする雰囲気を醸し出している。しかし、彼は少し気難しいところもあるし、意地悪をする時もあるのを知っていた。だから警戒心を抱かざるを得なかった。
「えっと、何でしょうか?」と思わず声が固くなってしまったが、仕方のないことだった。相手は軍人なのだから。彼は直立不動の姿勢を取って、次の言葉を待った。男は苦笑した様子で手招きしながら言った。「いいから、早くこっちに来るんだ」
言われるままに近づいた彼の胸元を男の手が掴み、強引に引き寄せられた。そしてそのまま抱きしめられる。
彼の身体が緊張から硬直する。
だが、それに反して男の方は至福の時を過ごしているかのように、目を細めている。やがてゆっくりと腕が解かれた。解放された途端、全身から冷や汗がどっと吹き出してきた。「何をするんですか!」
男は愉快そうに笑いながら謝る素振りを見せた。「いやすまない。実は君があまりにも可愛いからつい悪戯したくなったんだ」
「は?ふざけるな!」と彼が怒号を上げれば、「まあまあ、落ち着けよ」と言いながら、背中をさすられた。それがかえって神経を逆撫でする。怒りのままに殴りかかってもよかったが、そうしたところで意味がないとわかっているので、なんとか耐えることに成功した。「で?何ですか」
「あー、そうだ。君はどこへ行くのかな?もしよければ一緒に乗らないかと思ってね」と、男はシャトルを親指で指した。「いえ、僕は結構です」「そう言うなよ。どうせなら楽しい方がいいだろう」
そして、男は自分の方へと引き寄せた。抵抗したが無駄に終わった。「離せよっ!」「ほら大人しくしないとキスするぞ」「何の真似だよ、あんたは!」「まあそうカリカリするなって。冗談だよ」そして再びぎゅっとされた。今度はすぐに解放される。
そこでようやく相手の意図が読めてきた。この男は自分に気に入られようとしているようだ。それがわかった時点で、嫌悪感しかなかった。こんな奴に媚びを売られても何の価値もない。それにこれ以上関わるとロクなことにならない。ガウリールの名が聞いて呆れるなと、内心で己の甘さを叱責しつつ、そそくさと離れることにした。すると、背後で残念そうなため息が漏れたのが聞こえたような気がしたが、構わずその場を離れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます