一触即発

城塞都市エスキスの辺縁部。軍民両用ワイバーン離発着ステーション。その一角にデゾブレン翼竜ポータル株式会社のオフィスがある。

水晶球を取り次いだ受付嬢はカウンターの裏からどす黒い小箱を取り出した。二つ折りしたそれを蝶のように開くと、ボタンを連打した。


「もしもし! 今しがたマリス・ファーディの長女とドミトリーから連絡がありました」

身をかがめ、周囲に目を配りつつ、聞かれないようにボリュームを絞る。

「ワイバーンの配置は判っておろうな」

呪話器の相手は威圧的だ。

「はい。打ち合わせ通り、順調に進んでおります。ケルヒャー級をご注文どおり手配済みです」

女はきびきびと具体的な現在地を報告する。

「その調子だ。じき、忙しくなる。ワイバーンどもの体調はどうか。ピストン輸送に耐えられるか?」

「そちらもご心配なく。デゾブレングループの総力を結集すると社長が申しております。なお、その暁には…」

彼女はただの受付嬢ではなさそうだ。話の内容から私設秘書以上の地位のようだ。営業秘密や指示を枕元で直接聞かされる関係なのだろう。

「軍事プロバイダーに御用達してやると言っただろう。ザイドリッツは忠義に報いるのだ」

「ありがとうございます」

王立アカデミーの執務室でギャロンがほくそ笑んだ。メリッサの部隊は本気でファーディ母娘を亡き者にする勢いだ。

学園特警の攻撃が始まればバーゼノンは内側から崩れる。

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