ドミトリー、女になる
先手必勝。フェルミ・ファーディは大胆不敵な策を打って出る。
「そ、それはそれは誠におめでとうございます」
受付の女は大仰に驚いて見せた。デゾブレンに特大級のワイバーンは数騎ほど存在する。それらは繁忙期でなくとも恒常的に需要があるらしく、いつもキャンセル待ちだ。
ドミトリーを珍獣を眺めるようにしげしげと見つめ、深い深い吐息をした。光学迷彩の効果が心配になる頃、ようやく受付嬢の肺活量が尽きた。
ため息をつくのはこっちだと、ドミトリーは思った。アウェーに偵察に出たら、いつの間にか嫁にされていたでござるよ、である。
「じゃ、まだ引っ越しの準備があるから、これで」
回線を切ろうとしたとき、デゾブレン社が意外な提案をしてきた。
「ただいま御新居のお掃除、引っ越しゴミの回収など無料で…」
「いーから!」
あわててフェルミは水晶球を不活性化した。女の眼は節穴ではない。特有の違和感で新婦の正体を見破った筈だ。
「そ…それでフェルミちゃんは…お昼に何を食べたいのかしら?」
付け焼き刃の女言葉が痛々しい。「もういい」とだけ告げ、フェルミは呪文を唱えた。するとドミトリーは甲高い声で喉の痛みを訴え始めた。
「な、何をしたのよ??」
透き通るようなソプラノ声。
「普通にしゃべっていいから。あとは、魔法でどうにかなってるから」
「おイッ…ねぇ。元に戻してよ」
「戻らない。おかーさんならできるかも」
「ねえってば!」
ドミトリーが泣き叫んでいる間にワイバーンが舞い降りた。
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