学園戦争、勃発
<グリモワールの
無数の使い魔が学校の隅々に呼びかけている。
「ちょっと、貴女、何者なの?」
ネルバは使われていない教室の窓ごしに闖入者を眺めた。そして真横にいるもう一人のフェルミと見比べてみた。
目鼻立ちはそっくりだ。もしかしたら親子関係にあるんじゃないかと疑ってしまう。
「な…何者って、あたしはフェルミ・ファーディよ」
言いながらスカートのポケットから翡翠を取り出す。宝珠の表にはルーン文字で確かに本人の氏名が浮かんでいる。他人だと光らない。
「じゃあ、学校にいかなきゃ、と言いながら校庭を百周しているあの子は何なの? 貴女、フェルミって言ったわよね」
まったくあのバカ娘ったら、昔から聞かん坊だったが、そんな体力のある女の子だとは思ってもみなかった。もう少し早く知っていれば、使用人たちと一緒に菜園の手伝いをさせたのに。
マリスは心の中で愚痴った。
「どうなの? 図星でしょ」
ぎょっとして我に返る。そして慌ててへらへらと作り笑いする。
「そ、そんな事ないの…フェミニーナって足の速い子が姪にいるの」
「嘘。そんな取ってつけたような出鱈目。子供の前で恥ずかしくないの?」
全くその通りだ。マリスは観念して洗いざらい白状した。
青く澄み切った空に箒が群れ集っている。
「グリモワールの22番なんて、決戦兵器をどうやって盗み出したのかしら?」
「とにかく、フェルミ・ファーディを見つけ次第、射殺して」
「隊長、バーゼノン中央警察から失踪中のマリス・ファーディを逮捕、連行せよとの指令が入っていますが?」
「誰、それ?」
「同居中の母親です。フェルミ・ファーディを詐称して学園正門を突破。
「まったく、警察ったら…」
後手後手だと学園特警の隊長はぼやいた。魔女学校にはモンスターの召喚や破壊的な呪文を実習する際に生じるもろもろの不祥事に備えて、自前の防衛機構が付属している。
特警隊長のメリッサをはじめとする優秀なOBが卒業後も母校の治安維持に従事している。そんな優等生でも戦争で使う術式やアイテムは机上でしか知らない。
「卒アルと成績表をマリス・ファーディの出生十年前まで遡って検索」
メリッサは肩の眷属に命じた。「しばし、お待ちを」
カラスは当たり前のように人語を解した。そしてものの五秒と立たないうちに結論を出した。
「ファーディ一族はゲルマンカズラの専業農家としてファルン代理母センターより嫡出されました。傍系は本校で農業魔法を専修し、軍用魔法との接点は見つけられません」
「では、囮ってわけね。わかったわ。ありがとう」
メリッサはカラスに口づけすると、厳しい特警隊長に戻った。
「みなさん! 最初っから全開クライマックスで飛ばしますよ」
彼女の檄に上下左右の箒乗り達が嬌声を返した。
「「め、メリッサさん。それって…」」
両翼を若い魔女が随伴している。
「殺っちゃいましょ☆彡」
特警隊長は害虫を駆除するようなノリで先陣を切った。
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