女装
「床を踏み抜いちゃ駄目よ」
庭にめり込んだ足跡を見るなりストップがかかった。ファーディ家は灌木に囲まれた瀟洒な一軒家であるが、ザイドリッツの重甲冑を迎えるほどの耐久性はないだろう。
副脳の助言に従って門前で待機することにした。女装というのはどういう事だろう。ドミトリーには皆目見当がつかない。そのままの状態では守衛に拒絶されるとフェルミが言い張る。
「光学迷彩があるのに変装は必要ないだろ」
「保護者や教師以外の生徒は制服着用が規則なの」
そういって家に飛び込もうとしたが、彼女はくるりと踵を返した。「やっぱり、一人にしてはおけないわ。あなた、目立つもの」
二人は玄関を回って裏手の荷受け場に入った。使用人や配達夫が翼竜を留め置く場所だ。ここなら重甲冑がめり込む心配はない。コンクリートに乾いた足跡が残っており、マリスがレンタルワイバーンを召喚したことが伺える。
母親は通販魔らしく、わざわざ受け取り専用の個室を作らせた。そこがタンスの肥やしで溢れている。フェルミはそこで予備の制服に袖を通し、ドミトリーの変装に取り掛かった。
一時間後。
「これが…俺なのか?」
だぼだぼの上着にずるずるのスカートを引きずった、女学生とは程遠い怪物が誕生した。ドミトリーのサイズに合う服など端からあり得ないので、ベッドシーツとカーテンを適当に魔法で仕立て上げた。
頭髪は庭の隅に咲いていたゲルマンカズラをこれまたやっつけ呪文で束ね合わせた。あとは光学迷彩で取り繕った。
「みえなく…も…かなり無理があるけど…ないわね」
「問題ありありなんだろ?」
「こ、光学めいさい、がんばって」
フェルミは顔を引き攣らせた。流石に魔法の絨毯では底が抜ける。フェルミは水晶球の履歴から母親と同じ業者を見つけ出して連絡を取った。
「ケルヒャー級のワイバーン? はぁ? お引越しでもなさるんで??」
デゾブレン翼竜ポータル株式会社の営業担当は怪訝そうに言った。
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