古都フォルツ
古都フォルツ——先代王が起こした産業都市で造船業が盛んな街だ。今はドックが砂に埋もれている。ガントリークレーンから干上がった塩湖を一望できる。
どうしたものかとガウリールは頭を抱えていた。人身御供を差し出す事で命は取り留めたが偵察隊は免職になった。今は廃工場の残務処理をさせられている。
正方形の翼が雲一つない空をよぎっている。一挙手一投足を監視されているのだ。定められた範囲を逸脱すれば光の速さで射抜かれる。隣り合わせの死は無視だ。
「よっこらしょ」と重い計器をスチールラックに載せた。査定爆弾は機械的に廃墟を査定する。近代遺産の価値を認めれば保全をアカデミーに提案するし、リサイクルの余地なしと判断すれば容赦なく吹き飛ばす。
俺は幾らだろう、とガウリールは考えた。武器弾薬を抜かれた甲冑が彼自身を覆っている。脱ぐことはできない。ザイドリッツに生まれし者は成人年齢に達すると皮膚や筋肉を削がれて強化外骨格を纏うのだ。
首より下は機械の身体と言ってよい。生殖能力と内分泌代謝系がわずかに残されている。作り変えられたガウリールから偵察を取ったら何が残るのか。
”その頑丈な身体を俺が買ってやったんだ。感謝しろ”
甲冑の副脳が彼の不満に反応した。製作委員会のハンニバルだ。血の気の多い老学者で全身これ工作機械という男だ。ギャロンと対立している。
「呼ばれた意味を自分に問うていました」
”ナンセンスだ。制服は人に役割を与える”
国を陰から動かしている委員を丸ごとコピーしているだけあって、なかなかシビアだ。
「お言葉ですが、貴方様は白衣を纏っているのですか? それとも着られているのですか?」
ガウリールは率直な気持ちをぶつけた。
沈黙が27秒続いた。そして、空き缶を握りつぶすような笑い声が内心に響いた。
”わっはっは。気に入った。シフトが終わったら降りてこい。主脳を呼んでやる”
ガウリールはその讃辞を支えに残りの査定爆弾をすべてドックヤードに設置した。
西日が作業小屋に射す頃、ハンニバルのホバークラフトが塩湖に着陸した。
「いい知らせと悪い知らせを持ってきた」
歩く工作機械は右腕から無数の触手をのばした。節足動物が餌と格闘するように乾いた湖の底をほじくる。
やがて、土くれが赤熱し、いくつかの金属片に姿を変えると、目にもとまらぬ速さで小さな機械が組みあがった。
「良い知らせというのは、これですか?」
ガウリールが手のひらサイズのパーツを拾い上げると、小窓に文字が躍った。
(脇腹のコネクターにこれを嵌めろ)
半信半疑で言われるとおりにした。
”ジャドールが失踪したのはベライゾン妃の差し金だ。そして少尉がバーゼノンで見つかった”
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