とっておきの未知なる世界

ドドンと静寂な音が視覚に鳴り響いた。決して文法の間違いではない。唸るような札束と形容するではないか。

そんな日本語特有の環境音が目の前の陳列棚から「聞こえ」てくるのだ。


音源は圧倒的な量のベーグルが発していた。小麦粉を水と塩で練って発酵させたリング状の生地。それを茹でた焼き菓子がベーグルである。カリっとした歯ごたえ。それでいて中身はもっちりとしてベタベタに甘い。

ドーナツともクロワッサンともつかぬ不思議な食感が病みつきになる。そして食べ出したら最後あと一枚ついでにもう一枚と歯止めがかからない。まさに禁断の果実にして徹夜の友が置いてある。


それも一キログラム入りだ。誰が買うのか。数の暴力だけにとどまらない。消費期限が二日以内という縛りがある。

地獄だ。冷静に考えればベーグルをアレンジして客に供するのだろう。職人向けスーパーの買い回りは味の銀河巡りを満喫させてくれる。広い店内にとっておきの未知なる話が待ち受けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る