警官が銃を構えた

男が合図を送ると、奥にいた武装した警官が銃を構えた。沢木が「まあ落ち着けよ」


「沢木さん。あなたは何を考えているのでしょうか? まさか私を殺しに来たわけではありますまい?」

「当たり前でしょう。あんたを殺したら俺は犯罪者になっちまう」

沢木は笑った「だったらどうして?………… いやまさか 」

彼は何か思い当たることでもあるのか

「まさかとは思うけど。警察を辞めるとか言うんじゃないだろうな」


男はニヤリとするだけだった「はっはっは 笑わせてくれよるわい」


しかし沢木は全く動じていない「お前に聞きたいことがある」

「それは何かね? はっきり言ってくれて構わないよ」「まず 一つ、昨日起きた殺人事件はテロだったのだろうか?二つ目に 、あれが本当にテロリストによるものなのかどうか。三つ目は……、 お前の目的は一体なんなんだ?」沢木はさらに続けた。


「そうか、君は、いや、君は、 俺と同じ立場にあったわけだな」

「それはどういう意味だ?」

「いや別に。深い意味があるわけではない。それより私の質問にまだ答えてもらえてはいないようだが」そう言いながら男は部屋の外を眺める、警官が二人立っているだけだ。他には誰もいない


「そうそう。実はね、昨日の事件で、犯人とおぼしき奴らが捕まったそうではないか」それを聞くと「それじゃ」と思わず身を乗り出す。「そうだな まず一つ目の答えを教えてあげよう」

そう言って、 彼は懐から封筒を出した。中には紙の束が入っている「これがそうだ」

「これ? それは一体何ですか? 」

それをパラパラとめくり始めた沢木は「なるほど やはり 」と言った。

どうやら書類の内容は沢木が想定した通りの内容だったらしい。


「これが君の望んだものだったろう? はっきり言うが私はこれを君に渡さないことにした」

「なぜ?…… どうして?」

「だって それじゃ私がつまらないじゃないか。それにね、君は少し勘違いをしているよ。君が知りたかった事実を今から見せてあげるさ。ほらそこに写ってるのは君だよ」

その瞬間写真の中でフラッシュが激しく光った。


沢木が驚いて飛び上がったのだ。そして写真を凝視する、「なにっ!?」

「いいか?もう一度言うよ、そこに写っているのは君だ」

「嘘をつけっ!そんなことありえない」

沢木は食い入るように見つめる。


「いいや 本当さ。しかし君はまだ現実を受け入れられないらしいね。なら証拠を見せてやろう」


その途端、室内の照明が一斉に落ちた。


「きゃあっ」と看護婦が悲鳴をあげる

「静かにしなさい」と医者がたしなめるが、沢木は違った。彼は「うわっ」と叫んだ。


「どうだい? 分かっただろう?」沢木は呆然としていた。

「ああ 君がこの世で一番恐れていたことだ」

「そう 君がこの世で最も憎んでいたもの」

「沢木くん 久しぶりだね」沢木は振り返る。そこにはあの男が立っていた。

「お前は……」

「おやおや 君には名前で呼んで欲しいんだけどね。まあいい。ところで、 どうだい? 今の気分は?」沢木は震える手で、ゆっくりと拳銃を取り出した。


水野は、沢木が銃口を向けると同時に、反射的に床に伏せた。


しかし沢木は引き金を引いていなかった。彼は銃口を向けているものの、そこから弾が出ることはなかった。


沢木は、銃を下ろした。「何のつもりだ」沢木は言った。

「いや ちょっとしたお遊びさ。君があまりにも間抜けな顔をしているものだから、ついね」


「ふざけるな!」

沢木は怒りにまかせて、銃を撃った。乾いた音が部屋に響く。銃弾は男のすぐ横を通り過ぎていった。


「おお 怖い」男はわざとらしく肩をすくめた。

「それで 君はこれからどうするつもりなんだ?」

「決まってるさ。警察に自首する」

「ふーん やっぱり君は変わらないな。昔からそうだった」「

昔? 俺とお前は初対面のはずだが? 」

「いや そうじゃない。君は忘れてしまったかもしれないが、私たちは以前会ったことがあるんだよ。もっともその時はこんな関係ではなかったがね」

沢木は黙り込む。


「まあ そんなことは今はどうでもいい。とにかく 君がやったことを素直に認めれば、少なくとも君が逮捕されることはない。どうする? 」

「俺は 」「おいおい 君は何もしていない。ただ薬をばら撒いていただけじゃないか。しかもたった一人で。そうだろ?」


確かに、自分はあの薬を配る以外に何もしなかったが。

「だが……」


沢木は再び銃を向けた「沢木さん お願いです。


止めてください。あなたを殺人犯にしたくないんです」

水野の声だった。

「沢木くん 君にも分かるだろう? もう手遅れだ」

「待ってくれ。俺はやってない!」沢木は叫ぶように言う。しかし彼の言葉はもはや水野に届いてはいなかった


「もう十分でしょう」警官の一人が低い声で言い放ったのを皮切りに他の者も同調するかのようにざわめきだす。すると男は、両手を上げ「分かった。君の勝ちだ」と降参のポーズをした。それから机に置いてあったマイクを取ってスイッチを入れると「やあやあ どうも皆さん 私は警視庁の者です。今朝方に起きた一連の事件の首謀者はこの男です。

動機は、彼が所属していた宗教団体が、教義に反する行為をしたからだそうです。詳しくはこの動画を見てもらいたいと思います。ではどうぞ」


沢木は唖然としてその光景に見とれていたが、我に返ると急いでテレビの前に駆け寄った。画面の中では、自分の顔が映し出され、その横にテロップで「沢木恭平 指名手配中」と書かれている。


「くそっ あいつは どこまでも卑怯な奴だ」沢木は拳を握りしめながらつぶやく。「沢木さん あなたは無実です。僕が証明します。だからもうあんな奴の言うことなんて聞かないでください」水野は沢木の手を握った。「水野くん ありがとう。でも俺は大丈夫だから。それに奴は俺がここにいることを知らないはずだ。だから今のうちにここを離れよう」水野の手をほどき、沢木は出口に向かう「待ってください。沢木さん」沢木は立ち止まった。

「どうしてですか? どうしてあなたは逃げようとするのです? 」

「それは 」

「あなたは 本当は悪い人ではないはずです。だから 」

「水野くん 君は勘違いをしているよ」沢木は歩き出した。

「俺はね、自分が正しいと思うことしかやらないんだ。たとえそれがどんなに汚くてもね。それがどんなに間違っていてもね。俺は自分が正しいと思ったことのために行動する。それが例えどんな結果になってもね」


「沢木さん 僕はあなたの力になりたい」

「それはありがたいけど、君を巻き込みたくはないんだ。それに君は、君の人生を歩むべきだ。君は、君の人生を生きるべきなんだ。君は君自身の人生を全うすべきだ。君は君の人生を生きてくれよ。じゃあね」沢木は部屋から出ていった。

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