プロキシーファイター

ロココ様式の講壇にセーラー服姿の女が立っている。それに耳を傾けるフリフリドレスたち。異世界感が半端ない。

「戦闘攻撃機、攻撃機、支援攻撃機、戦闘爆撃機の違いは先ほど説明したとおりです」

 アグネスはお茶の時間を挟んで講義を再開した。王立アカデミー会員たちは熱心に羽根ペンを走らせる。

 緞帳に戦闘機のワイヤーフレームが浮かび上がった。

 アグネスはつづけた。

 プロキシーファイターは遠隔操縦が可能な有人戦闘機である。

 1960年代以降、有人戦闘機無用説とミサイル万能論が台頭した後、戦闘機の格闘能力の必要性が再認識され、冷戦下で対ソ・東欧戦線におけるエア=ランドバトル戦略が湾岸戦争で実用化された結果、航空戦力が重要なウエイトを占めるに至った。

 航空機は大艦巨砲主義に次いで、機甲師団同士が激突する電撃作戦すらも旧態化させてしまった。

 空爆至上主義の発展形態である、プロキシー戦闘機は、巡航ミサイルと固定翼機の双者の間隙を埋める解の一つである。

 JDAM,CALCM,JSOW等のスタンドオフ兵器は撃ち放しである為、標的は固定目標に限定され、ステルス戦闘機を投入した場合、内蔵ウエポンベイの搭載量から制約を受ける。

 したがって、ハイパープレシジョン(極超精密照準)であること。

 能動目標を確固撃破できる機動性を有すること。

 充分な爆弾搭載量を持つこと。

 プロキシー戦闘はこれらの要件を満たす切り札といえよう。

 彼女が傭兵戦術の推移を駆け足で教えると、ワイヤーフレームが分裂して、陸海空の兵器に変った。


 無人偵察機、巡航ミサイル、AWACS、イージス艦の機能を有機的に統合し、

 同時に200機以上の機体を遠隔自動操作可能なデリゲート戦闘サーバー(Delegate Duel Server)を搭載したデリゲート艦(DDGVN=Delegate Destroyer for Guided Vane Neatfusion powered)には、QF-102等の無人標的機の技術が導入されている。

 兵士はDDSを介してデリゲート(代理)戦闘を行うが、アビオニクス、火器管制系統は脳波コントロールによるフィードバックではなく、召喚呪文を使用している。

 精神制御では、個人の資質に左右されるばかりでなく、精神統一のゆらぎによる影響が少なくない上に、第三者による故意の擾乱や傍受といった危険が伴う。

 しかし、召喚術は一定の手続きが明文化されており、運用が容易で意図的な干渉も排除できる。

 攻撃魔法 防御呪文にくわえ、加持祈祷による強力なシールドの保護下で、制空権を必ずしも完全に掌握せずとも、絶対航空優勢を確保できる。

 ここで、アグネスは自分たちの優位性を売り込んだ。

 ストラットダンサー[Strategic Defence & Enforce]は航空部隊に先駆けて侵入し、プロキシー戦闘サーバーに攻撃目標等の情報を伝達する。

 さらに防護フィールドを展開してプロキシー戦闘機を遠隔操作する。

 前線で重火器を携行しつつ、長大な補給線を構築するよりは、はるかに迅速で効率的な制圧戦が可能になるのだ

 そう力説すると、お忍びで来ていたオドラ・ポンダが舞台袖から現れた。カモメやアジサシの女子隊員たちもアグネスを囲む。

 彼女と女王ががっしりと手を組むと、天窓から神々しい西日が射した。

 惑星ヴェイピアの空が解放される日も近い。

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ストラットダンサー 水原麻以 @maimizuhara

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