すげえことになってるぞ

「嘉男、ここは剣と魔法の世界じゃないのよ」

「すまなかったな。メリダ」

それで俺と彼女は異世界産の麦酒エールでちびちびやっていた。店の奥には大きな水晶玉が鎮座していて温い環境映像を流している。異国情緒あふれる何処かの市場だ。割烹着のおばさんが角の生えた男に商品を売りつけている。

「まったく最近じゃどこに行ってもこんな有様ですよ。大陸だけじゃなく異界からも人外が大挙して、居酒屋にたむろしても誰も驚かない。ま、五輪後も安泰だし、結構なことですけどね」

オヤジは皿を拭きながら複雑な表情をした。

「そうですよね。文句を言ったら罰が当たりますよ」

俺も同調した。

蝙蝠のケチャップ煮を追加注文しようとした、その時だ。

水晶玉から爆発音が聞こえてきた。映像が切り替わり、立ち込めた煙が垣間見える。

「魔塚市中心部で連続爆発です。店舗や車両が破壊され騒乱状態となっています。死傷者の数やテロの可能性は不明です」

箒に跨った美人が現場上空からリポートしている。カメラが振り返るとオレンジ色の光がビルの谷間に炸裂した。

「おいっ、すげえことになってるぞ」

さっきの運ちゃんがカウンター席から転がり落ちた。彼がぶったまげるのも無理はない。

    

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