敵、侵入経路

羽田マルチポート。かつては国際空港という名前だった。現在では滑走路や駐機場が取り除かれ、代わりに背の高い建物が林立している。高層ビルではなく、ロケット組立工場のような窓のない建物で1階に狭い扉がついているだけだ。

蟻のように長い行列ができている。covid-19という厄介な病が人類に行動変容を敷いてから、公共交通機関もガラリと様変わりした。

まず航空機は人間の乗り物で無くなった。人間が大陸間を結ぶ感染源になるからだ。そこで乗客の代わりにテレプレゼンスロボットを運搬することにした。利用客はまず、チケットを買い、空港ホテルに連泊する。そこでVRゴーグルやパワーグローブを装着してVR空間に没入する。旅行や出張中はずっとロボットを遠隔操作してどうしてもこなさなければいけない現場作業や面会を行う。

滞在中は出国扱いだ。そして用が済むとロボットと手荷物を受け取り入国手続きをする。

青山司奈はスイス行きのテレプレゼンスチケットを買い、チェックインした。

「本当に行くのか?」

小坂融像が押っ取り刀で見送りに来た。

「大気圏往還機の便を押さえましたから日帰りです」

「おい!」

「上のほうを通してありますので」

彼女はさっさとゲートに向かった。

話は数時間前に遡る。鑑識に依頼していたプリンターの中間結果が出たのだ。機械の形式は十年以上も前のもので、もちろん現存していない。そして流通経路も限られているタイプだ。分解してみるとシステムクロックを補正する部品がとても旧式だった。

今どきインターネット接続して原子時計と同期する方式は珍しい。そしてここが肝心な点だが、案の定、アクセス先はスイスにある国際研修協力機構の公開サーバーだった。原子時計に接続して狂いのない現在時刻を得ている。

この脆弱性を突かれた。

「犯人はやはりデカルトの開発チームです」

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