最初の身代金要求

アルジェラボ、旧AI探査機研究開発棟後。青山司奈は「現場百回」という先輩刑事の教えに従って地道な捜査を続けていた。現場に残された遺留品は少ない。パソコンやサーバーの類はきれいさっぱり消え失せ、個人用の記憶媒体すら根こそぎ消滅している。入力デバイスやッフットレストから開発スタッフのDNAは検出されたものの有力な手がかりはなかった。

「残るは3Dプリンターね」

司奈は手つかずの遺留品に着手することした。まず、装置を鑑識に回し分解して徹底的に解析するところから始める。これは彼女の専門外なので、担当者に丸投げした。結果判明には1週間ほどかかるという。

「それまで待てないわ」

何か少しでも不審な点があれば新型空間端末シャウトに通知するよう伝えた。その間にもルネ・ファラウェイを名乗る人物からのふてぶてしい犯行声明が届いた。強制婚姻制度を廃止せよ、というのである。

しかし、それで出生率を急激に回復することは望めないから、出産を望む女性たちの基金を募るという。まずは、指定した日時までに量子仮想通貨を購入せよという。

「ふざけんな!」

司奈は報道関係者向けのプレスリリースをぐしゃぐしゃに丸めた。

指定金額は世界のGDPの5%分。

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