シーソーゲーム
世にも奇妙な取り調べが行われていた。
女の浦島太郎がアクリルボードに囲われて刑事と向き合う。二人を錆びたスチール机が隔て、卓上ライトがさんさんと輝いている。
「稲田姫は軍事利用目的だったという証拠は、5年前に国会審議されているんだ」
清瀬清美に動かぬ証拠を突き付けてもキョトンとしている。
「あの…今は何年ですか?」
小坂融像は呆れを通り越して感心した。今どきB級配信でも扱わない台詞を口にする。この娘は何者なんだろうか。
「文久三年だよ。もう一つ驚かせてやろうか。清瀬真美の遺骨とお前のDNAが一致した。本人をどこへ埋めた?」
どん、と発見現場の写真と検死ファイルを積み上げる。
「何の事だか、あたしはさっぱり…」
浦島太郎女は頑なに否定する。
「もういい」
融像は隠しボタンを押して透明な独房を床に沈めた。入れ替わりに青山司奈刑事が帰ってきた。
「やっぱりアルジェラボから開発資料が根こそぎ盗まれています。矢作絵里奈の遺留品を除いて一切合切」
印旛沼アルゴリズム推進研究所は民間超光速ロケットの最大手として航空宇宙省の助成を受けていた。
NASAの月火星間プラットフォームが失敗に終わり、人類がラグランジュ3軌道より内側にしか生きられないことがわかると、世界は落胆と失望を乗り越えて次のステップへ進んだ。
その次世代を担う量子テレポーテーション航法でしのぎを削っていた有力候補がアルジェラボ——被害者の勤務先だった。
当時、欧州宇宙共同体のデカルト、神聖日本の稲田姫、そして新疆ウイグルの
そして于闐が一足先に火星へ飛び立った、赤茶けた大地を踏みしめる機械の獣たちを乗せて。
遅れを取るまいとデカルトのチームが開発のピッチをあげたが、そこで事件が起きた。
”僕は痴女に乗っ取られました”
機体が忽然と消えてしまったのだ。設計図から実験データに至る機密ファイルはクラウドに保管され多層防御されていた。
にもかかわらず易々と侵入を許したのだ。
「入れ替わりにアルジェラボが稲田姫ごと消えて、唐突に廃墟だけがあらわれた。こんな難事件、カクサンの手に余りますよ。デカチョウ」
司奈は机に突っ伏した。
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