発動、偕老同穴偃月斬

取り囲む十重二十重の警備兵、僧兵、武装信徒、たかぶる殺意の坩堝に彼女たちはどう抗うのか。

「ねぇ、貴女」

アドニスは抜魂刀を振りかざして相方を守ろうとする。

「いいわよ、私のお嫁さん」

キースも背中あわせに刀を構える。すうっと二人のスカートが揺れる。

二人を中心に同心円状に波紋が広がっていく。

「その仕草は…偃月斬?」

フィーナはハッと息を吞む。「だったらこっちも容赦しないわ!」

同じく抜魂刀を水平に持ち全速力で駆け出す。「死ねええ!」

キースとアドニスは互いの周りを衛星のようにくるくる回りつつ、全方位から切りかかってくる雑魚どもを迎え撃つ。

「頭上ががら空きだよっ!」

フィーナは高らかにジャンプし二人の真上から刀を振り下ろす。

「させるか!」

アドニスはフィーナの刀を刀で受け止めた。

「ぐふっ!」

衝撃で二人とも体が後ろに押される。

「ふーっ!」

さらに追い打ちをかけようとするアドニスだが、

「ぬんっ!」

フィーナの渾身の蹴りが彼女を押し切った。

「ぐ、う!」

二人は押されながらも体勢を立て直し、次の仕掛けを狙う。

「うっ」

ふと気づけばキースはフィーナのところにまで押し寄せていた。しかし斬撃で押し戻される。

「…くっ!」

キースは苦々しく顔を顰める。

「こいつもどうせ…」

アドニスが歯で束の紐を噛みちぎる。「窓際の枯れ尾花」

抜魂刀が白熱しはじめる。ここから終幕まで追撃天使の花道だ。

「かっ、偕老同穴かいろうどうけつ…」、キースが術式をコールし…。

偃月斬えんげつざんッ、ん…くぅ」。

アドニスが熟れた唇で嫁の口元を塞ぐ。滾る愛情が昇華し蒸熱となる。典令守護の精霊は二人の契を受け容れた。

【なかむつまじきこと、とわに、よきことかな】

じりじりとにじり寄るフィーナ。絶叫が旋光にかき消されて行く。

パッ。蔦葛市を中心とする震度七の直下型地震が発生した。

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