家庭不和の謎

紗希もといアドニスは推理を巡らした。母子と安永一家の関係だ。少女が睨んでいたことから安永家と怨恨もしくは因縁があるとみて間違いない。家庭不和の理由は何だろう。恨みつらみを裏返せば親密、友情になる。家族ぐるみの長い付き合いに何らかの亀裂が入った。安永栄一の死が影響している可能性はある。鉄道に飛び込んで多額の死亡保険金が入った。ありがちな妬みだ。

だが家族同然の交際は幸不幸を分かち合う。追悼や無念の意が募る筈だ。

夫が酒浸りになる理由。紗希は閻魔帳の罪歴を照会した。飲酒は大罪である。宗派によるが閻魔庁は改宗者や出家信者の還俗にまつわる罪業も余さず記録し異端審問官に渡す。夫の酒量は安永栄一の死後に増えている。因果関係は明らかだ。

「唯一無二の親友を失った悲観? 妻子が支えになる筈だわ」

紗希は精神ショックの線を消した。死亡保険金の額と受取人の名義は彼も知らない筈はなく羨望にはあたらない。残った可能性はさらに低い。

安永富雄はナーロッパ教に嵌まっていた。宗教嫌いの亭主は多い。妻を宗教に奪われるからだ。「富雄が布教熱心なあまり妻の浮気を疑った?」

それでなくともお布施の額や信仰を優先し家事を軽んじる行為が口論のネタになる。

本当にそうだろうか。仲良しこよしの御近所つきあい。その延長にある平和がたった一人の死で崩れるものだろうか。

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