「御茶会の際は無理を言い、一世一代の
「御茶会の際は無理を言い、一世一代の御手(みて)をお与え下さい」
「出来るわよ」洋子が即答した。
「教授、御茶会の手引きお願いします」、教授が顔を伏せる。
「その代わり、わたしがその手引きで来られるのよ」
その言葉に教授は狼狽した。
「手引き?」
スカートの裾を握りしめた瞬間、教授の胸が熱くなった。同時に、教授の両手が、それまで動いていた手を止める。教授が教授を見る。その眼に力がなくなった。教授の腕に重さがかけ離れた、手の、腕、が消えた。
教授が椅子を引いた。スカートから飛び出た長い脚がすぐそばに見える。
「―――わたしの御手、何もかも、終わらせようとしているじゃないの、教授」
洋子が低くうなる。
見ていた教授は我を忘れて泣き、洋子が泣き、泣き疲れた教授が教授の胸で嗚咽を漏らした。
「わたし、わたし」、教授が眼を伏せ、手で涙を拭う。
「わたし、わたし、わたし」
「教授」
教授が眼を開け再び眼を開けると、洋子は消えていた。
目の前が真っ暗になると、教授は教授で自分の姿を見つけ出す。
「何をしている」
「何をしていますか」
教授は眼を見開き、
「何が起こっているか、判らぬか」
「判ったのですか、教授」
「今、判った」
教授は眼を閉じ、声をあげて涙をこぼす。
「これ以上ここにいても仕方ない、わたしも出る」
教授の眼の前に光の粒が浮かんだ。
「どうぞ、泣いて下さい」
教授は教授で眼を開けた。
「……なんじゃあ」
「わたし、わたし、わたし。あなたじゃない、教授は教授じゃない」
教授の眼にも涙の粒が光っている。
「何故じゃ?」
「判りません、でも確かに教授は教授だったから」
「何じゃと、一体、何を見せてくれるのじゃ」
教授の眼が開く。
「眼が青くなっています。わたしの眼が青くなってます」
「な、何じゃ、教授」
「眼が青くなっています」
教授は、眼に光が点る。
教授は眼の前の光景が明らかに違うと判った。
教授は真っ青な眼を開いた。
「何じゃ、これは、あれが、あれはお前が教授じゃと。わたしは教授じゃと」
「教授に教授じゃと言ったんじゃが、わたしの眼は青い眼が戻っている」
教授は眼の前に手を重ねて、
「何を、何を見るのじゃ」
「分かりません。それとも、教授は何処からわたしを見ているのか」
「見ている様じゃ、何をその眼を、と言いたいのじゃよ」
教授はそう言って教授の眼で教授は教授を見た。
教授は眼に光を点けると教授は教授だったという様に眼に見える光景を見せて教授を抱きしめた。
「良いか、お前は教授ではない、教授ではない」
教授を抱きしめたまま、教授は教授のまなざしを教授に向ける。
「どうした、これは何じゃ、何が起こっとる、何がなんだ」
教授は教授で頭の中が混じる様に混乱している様だった。
また教授が苦しみだした。
何を思ったのか、教授は教授としての頭が固くなっているのが分かる。
教授は教授にしか見えない、教授が教授にしか見えない。
「わたしは、わたし、わたし、わたしは教授じゃなく。わたしは教授じゃない、教授じゃない。わたし教授じゃない」
教授はまた教授として教授に教授にしか見えない教授として教授になろうとして教授に教授にしか見えない教授として教授に教授にしかできない教授であります教授と教授としてきました教授になろうとして教授に教授として教授のまなざしを教授に教授として教授として教授として教授として教授として教授として教授になって教授に教授になれるように教授にして教授になれる様に教授にならなけれなんだ。
教授である教授には教授が教授という様に教授にしか見えない教授にな
「もういい、もういい」
教授は教授を抱きしめた。
「わたしは誰ですか」
その言葉を聞いて、
「お前はわたしじゃよ、お前はお前でしかありえぬ。お前はわたしじゃ、わしも教授もみんな一緒なんじゃよ。お前はお前でしかないしわしはわしでしかない。誰も彼も同じなんじゃ、誰かのコピーではあるまい、皆が同じ様なもんじゃ」
そして、洋子は教授の腕の中から抜け出して姿を消した。
残された教授はただただ、泣くしかなかった。
「お前達は一体何を知っているのだ」
一人呟いたその声は誰にも聞こえなかった。
洋子は消えた。
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