福江港の事件
朝焼けがすぐさま眩しい陽光に変わった。波止場の奥に見える青屋根は漁師の小屋だ。狭い海峡から大洋に向けて尾根を風が駆け降りる。扇状台地に拓けた福江の港町は大鯖のシーズンを迎えている。遠洋漁船を横目に護岸から糸を投げる人々がいる。澪は火照った体を冷やすため海を見に来た。肌を焼く紫外線が憎たらしい。楓を泣かしたあと祝い酒の名目で誘われるまま街へ出た。男から女、女から女へ転がるように身をまかせ気づいたら制服が薄いワンピに替わっていた。二日酔いが見せる黄色い太陽に気を取られて水に落ちた。
「澪ちゃん!」
とぷん、と飛沫があがりボーダー柄の生地が波にもまれる。強引に腕を掴まれ息苦しさから解放された。尖った前髪の隙間からたわわな胸が見えた。深紅のビキニブラ。
「
必死にしがみつくと逆にぎゅっとしてくれた。ぽたぽたと彼女の顔面から水滴が垂れる。
「泣いてるの?」
腫れた目じりから直感した。
「当り前でしょ。あたし独りじゃ生きていけない」
「私のために泣いてくれるの?どうして」
怪訝そうな澪に紗綾は更なる涙を流した。
「どうしてって…わからないの? わあああ」
ただただ泣きじゃくるばかり。澪は状況を説明できない。
どうして、どうして涙をながすの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます