第30話 屋上



本日2話更新し第一章終結となります。

宜しくお願いします。


―――――――――――――――――――――――――――――



 あの日、惣太が朝礼に出たのは、わずかな可能性に賭けたからだった。


 あの朝礼の日は事件から数日が経っていたので、もし犯人が人形の破片を持ち去っていたとしても、捨ててしまった可能性が高いと踏んでいた。


 だが諦めきれないので、犯人が分からないので、まとめて全校生徒に発信した、というわけだ。


 つまり惣太は心のどこかで諦めてもいたわけだ。


 だから惣太は驚いていた。


 まさか本当に返ってくるとは。




 翌日の放課後、惣太は屋上にいた。


 抜けるように青い空の下に、吊り上がった目をした気の強そうな少女が一人いる。


「悪かったよ」


 彼女の手には黄色い丸い物体が握られていた。

 由紀の人形の胴体部である。


 決然とした面持ちの少女はゆっくりと歩み寄って惣太に人形を差し出した。


 手にそれが落ちて来る。

 ボトッと重たいものが落ちてきた気がした。


「返してくれてありがとう。だけど、もうすんなよ? 由紀も、とても傷ついている」

「あぁ……」


 持ってきた少女は憔悴しきっていた。


「職員室でも、行くか?」

「いやいい」

「何でだ」

「由紀が、俺のことを心配している。だから、もし返ってきたらもうそれで良いって言われてる」

「そうか……」


 少女はしみじみとした様子で頷いた。


「ホント悪かった……。反省してるよ……」



 目に涙を溜める少女は、深々と頭を下げると、去って行った。

 少しするとバタンとドアが閉じ、屋上で一人きりになった。


 ふぅ~っと惣太は大きく息を吐き出した。


 さすがに犯人と対峙するのは緊張する。


 何を言われるかと身構えていたが、相当落ち込んでいたようだ。

 もしかすると朝礼での一件で、こちらの本気さが伝わったのかもしれない。


 とにかく返ってきて良かった。これで人形の修復は出来る。

 

 朝礼でやらかした甲斐があったなとワタの塊を握りしめ屋上の入口へ振り返る。


 するとその時ガチャリ、と音がして屋上のドアが開いた。



「おおおお~~~~、朱莉あかりのこと追って来たらやっぱ深見君いるじゃ~~ん」


 入ってきたのは五名ほどの少年たちだった。

 ガラの悪い事で知られる、少年たちだった。


「宜しく~~~。この前は朝礼で勇ましかったね~~!! ちょっと面貸してくんな~~い??」


 直後、少年の振りかぶった拳が惣太の顔面をとらえた。


 肉と肉がぶつかる鈍い音が辺りに響き渡った。




 それから五人の人間に、惣太は殴られている。

 

 強烈な一撃により地面に転がるとケリが加わり始める。

 

 ここで全てを終わらせる。


 そのためだけに惣太は耐え続けていた。


 だが……


「で、これがお前が大好きな義妹の大切なものなんだよな~~!!」


 いつのまにか惣太の手から人形は弾き出されていて、それを拾い上げ少年が引きちぎろうとした。


「こんなゴミくず! もういらないよなぁぁぁぁああ!!!」

「お前ッ!」


 その瞬間、怒りで頭の中の何かが勢い良く切れた。

 頭の中が真っ白になった。


「それに手を出したらっ、ただじゃおかねえかんなああああああああああああああああ!!!」

「は、この状態でぇー、どうただで置かないんだよぉ!!!」


 激昂する惣太に男たちの攻撃がさらに強まる。

 ケリを繰り出す足により一層力がこもり出す。


 だが惣太もこのままやられる気は全くなかった。


 惣太は大きく口を開けた。


 そして――


「イッーーーーツ?!?!?!」


 惣太は渾身の力を込めて噛みついていた。


 骨をかみ砕きそのまま食いちぎる、そんな勢いで噛みつく。

 それだから噛みつかれた主犯格の男は悲鳴を上げ涙を流していた。


「おま!! 噛んでんじゃねーよ!! 離せよ!!!」


 男は必死に足を上下させ振り払おうとしていた。


 しかし惣太は離さない。

 カミツキガメもかくやという勢いで惣太は噛みつき続ける。


 奥歯が砕けるんじゃないかというほどの気合の入れ方で噛まれた男は「アヤバイヤバイヤバイ!!!」と顔を顰めあえぎ始めた。


 それを見てすかさず「オラ!」っと仲間が惣太への攻撃を強め、惣太はスタンプされるように踏みつけられまくった。


 嵐のような攻撃。その中で、ある一撃が惣太にクリーンヒットした。

 それにより「カハッ!」とそれまで唸り声を上げ噛みついていた惣太も口が離れてしまう。

 次の瞬間だった。


「ブッ!」


 男に人影が飛び込み、なぎ倒した。


 誰かが惣太を助けに駆けつけてくれたのだ。


「あなたうちの惣太に何してくれてんのよ!!!」


 見ると、それは、由紀であった。


 涙を流す由紀が髪を振り乱し、男をなぎ倒し馬乗りになっているのだ。


 大粒の涙をこぼし男の胸ぐらを掴み、由紀はシャウトしていた。


「アンタたち!! うちの惣太に何やってくれてんのよ!!!」


「あそこです!!」

「あなたたち何やっているの!!!」


 そこに由紀に呼ばれて来た女生徒や教師たちが駆けこんでくる。



「惣太大丈夫?!」


 男たちの攻撃がやみ惣太が解放されると由紀は目を真っ赤にしながら惣太に駆け寄った。

 惣太の惨状を目の当たりにし、さらに大粒の涙が目から零れる。


「あ、あぁ……」

「も~~何やってるのよ~~~!!」


 由紀はガバッと惣太に抱き着いてきた。


「ごめん……。でも人形の残り持っている人がいたから……」

「そんなもう良いって言ったじゃない!! 惣太の方が大事なんだから!! そう言ったじゃない!! もう変なことしないでよ~~~!!」

「わ、悪い……」

「も~~~~!! 心配した~~!! 惣太大好き~~~~!!!」


 由紀は自分のことのように怪我をした惣太を見て大泣きしていた。


 それに惣太は戸惑い、されるがままになる。


 こうして、惣太を暴行した男たちは停学処分となり、由紀が転入したことによる騒動は一つの結末を迎えたのだった。



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る