第24話 球技大会
本日2話投稿します!
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由紀を巡る男関係の疑念。
由紀の狙う男たちから向けられる非難。
惣太の女友達に関する誹謗中傷。
そんな安息とは程遠い日々の中、それは訪れた。
「惣太! 今日は球技大会だね!!」
球技大会! である。
朝、一階に降りるといつも以上に元気な由紀が惣太を出迎えた。
「だな」
「楽しみだね!!」
「お、おう……」
惣太の通う都立西南高等学校は毎年春に球技大会を行うのである。
男女ともにバレーとサッカーに分かれ、クラス総当たりで試合をして、親睦を深めるのだ。
運動神経抜群の由紀はこの日を一日千秋の思いで待ち侘ていた。
だが、同じ家族である惣太も同じ思いかと言えば違う。
「はぁ……」
「大丈夫? 惣太?」
「うん、大丈夫だよ」
惣太は由紀が焼いてくれたバターの載ったパンを口の中に無理やり押し込み今日のことを考えていた。
球技大会のことを思うといつだってため息が出る。
由紀を巡るライバルが登場することはほぼ確実と思われるからだ。
既に由紀の図抜けた運動神経は学園中に広まっている。
そんな由紀が大衆の前でスポーツをするというのだから、その美貌を一目見ようと、多くの男子が詰めかけることは明白である。
となれば、その中から自分に自信のある生徒が由紀と接触を試みることは、その時が訪れなくても分かる既定路線だ。
それは由紀にいつ何時彼氏が出来るのではないかと警戒している惣太にとって歓迎出来ない事象なのである。
この日が来なければ、とどれだけ思ったことか……。
しかし時間がその歩みを止めるわけもなく――
「がんばれーー!! 中川さーん!!!」
「由紀ちゃん頑張ってーーー!!!」
案の定、由紀のバレーの試合には多くの生徒が駆けつけていた。
試合をしている以外のクラスの生徒も、由紀を一目見ようとギャラリーに詰めかけている。
それにより生まれるのはギャラリーから会場へ流れ落ちるナイアガラの滝のような大歓声だ。
頑張れー!! 頑張れー!! と男子たちが声を張る。
由紀への歓声でコートの選手はコミュニケーションが取れないのではなかろうかというほどの応援。
由紀の人気をこれ以上なく端的に示す光景に惣太は頭を抱えていた。
こんな大歓声に、勝てるわけが無いではないか、と実感させられる。
こんな人気のある女子に自分が好かれるわけが無いと、コートへ落ちる大歓声がそのまま天まで届く圧倒的な壁になって惣太の前に立ちはだかった。
それだけ人気のある少女なのだ。
「おい惣太お前へたくそかよ!!」
血が繋がっていないにも関わらず、幸運なことに家族である惣太への嫉妬はやはり苛烈なものがあった。
サッカーにおいてディフェンスを担当している惣太が抜かれると、チームメイトはたちまち惣太を非難した。
クラスメイトからの叱責に惣太は歯を食いしばる。
普段から嫉妬の対象である惣太は彼らは一際辛口であり、些細なミスも許さないのだ。
またそれ以上に周囲の男子たちのマウントも露骨であり、
「深見雑魚だから次の試合イケるぞ!!」
「おう!!」
と観戦していた男子たちはこれ見よがしに惣太のことを悪し様に言っていた。
そしてこのような情けない環境だというのに由紀はいるわけで
「コラーー!! 惣太!! サボるな~~~~~!!!」
「ちょっとーーー!! 今のは止めれたでしょ惣太ーーーー!!!」
「イケー!! 行け!! 惣太! 攻めろ!!!」
由紀の応援に、悲しいやら情けないやらで、惣太のプライドはズタズタだった。
「お前ちょっと黙ってろ!!」
たまらず八つ当たり気味に由紀に言い返すと手をメガホンのようにし応援していた由紀は眉を吊り上げた。
「何よ!! 応援してあげてるのに何その言い方!! 私が応援してあげてるんだからもっと頑張りなよ惣太!」
「これでもシャカリキ頑張ってんだよ!! やれば何でも出来るお前と一緒にすんじゃねー!!!」
由紀の義兄である惣太は悩みは尽きない。
また由紀の家族であるからこそ強いられる仕事もある。
「惣太、さっきは聞こえなかった」
「周りがうるさいんだよ」
「そんなことは分かってる。でも今度はそれでも聞こえるように」
「マジでか……」
由紀にそのように注文を受けた惣太は、試合が始まり手で通り道を作り声を張り上げた。
「由紀~~!! 頑張れ~~~~!!!」
「なんだあいつ……」
惣太の大げさすぎる応援に周囲の男子は見下したり、引いたような顔をしていた。
だけど仕方ないのだ。これは由紀に頼まれた仕事なのだから。
「頑張れ由紀~~~~!!!」
「任せろーーーー!!! 弟よーーー!!!!」
惣太があらん限りの声を出すとそれに満足したのか会場の由紀はサムズアップした。
「弟なの?」
隣にいた久志が聞く。
「その時々によって変わる」
「いや~~~最後の試合は熱かったね」
その日の昼休みは、惣太は、惣太の友人や由紀、それと由紀の友人たちと机を囲んでいた。
皆が今日の試合について思い思い語っていた。例えば由紀は午前最後のシーソーゲームについて熱弁している。
「にしても深見ッチもすげー声出してたじゃん。やっぱ義妹の応援は熱が入るのか?」
惣太の横で猪上は感心したように言っていた。
「いや、それは由紀に言われたから」
「由紀に?」
「そ、こういう時は前から惣太にお願いしてるんだ。惣太に応援されると力出るからね」
「前から?」
惣太に代わって由紀が事も無げに言うと、猪上たちは不思議そうにしていた。
「うん、前から。中学の時とか高校の時も部活の応援に惣太来てもらってたし」
「そうなん?!」
他校の応援にまで行っていた惣太に女子たちは仰天である。
「そ、そうだぞ……。それで毎回大変な目に遭う……」
「そ、去年なんて彼氏だって勘違いされて男バスの生徒に目つけられてね~~~」
あの時は大変だった~~~!! と言う由紀にその話聞かせて聞かせて! と女子たちが食いついていた。女子たちはいつだってコイバナに夢中である。
だが男子は別にコイバナなど興味はなく、惣太は身の危険を感じ始めていた。
◆◆◆
その後も体育祭は波乱含みで進行する。
「おい見ろ!! 中川さんと淀川さんが戦うみたいだぜ!」
例えば、由紀と紬がぶつかる試合を前にし、観客の誰かが興奮気味に言っていた。
だが行う試合はバレーの試合だ、一対一で行うものではない。
何を大げさなことを言っているんだとそれまで隣のコートの試合を見ていた惣太が下に目を向けるとなにやら二人はネット際まで歩いていき
「絶対に勝つから」
「ふ~~ん、よろしく」
とネットの下で握手を交わしていた。
表情を変えない紬に、不敵な笑みを浮かべる由紀。
由紀はいつもと変わらないにしても、紬が誰かにあんなにも挑戦的なことを言うのは非常に珍しいことだ。
珍しいものを見たとその光景に呆気に取られていると
「試合だ行くぞ」
「行くよそうちゃん」
「お、おう」
惣太は幸次と真彦に腕を引っ張られその場から連れ出されていた。
体育館から出た直後、体育館から観衆の興奮した歓声が聞こえて来る。
由紀と紬、どちらかがスーパープレイをしたのかもしれないが、惣太には分からない。
少なくとも体育館からは大熱狂する観客の叫びが聞こえて来るので、盛り上がっているのだろう。
そんな風に注目を集める生徒の関係者であるからこそ、その後も惣太は悪目立ちしていてバッシングされ続け、
「昼はスポーツに夜はゲームで大忙しだね」
夜、この日溜まったうっぷんを晴らすべく惣太はゲーム機を起動していた。
これよりネット上で遭遇するプレーヤーを徹底的に狩っていく心づもりである。
と、思っていたら連動しゲームをしている友人たちから連絡が来た。
『今近くに由紀さんいる?』
『いるけど』
即座に返信する。
『ケッ』
すると親友たちからまで批判するようなスタンプが多数飛んできて惣太はがっくりと首を垂れるのだった。
なぜ……
こうして球技大会の日は過ぎて行ったのだ。
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