第23話 噂




 紬と美術館に行ってから数日後のことだ。


「おいお前噂になってるぞ」


 昼休み、惣太の前には久志は深刻な顔をしていた。


「何の噂」

「お前を巡って、由紀ちゃんと紬ちゃんと鞠華ちゃんが戦ってるって噂」

「マジかよ」


 惣太が思っていたのとはまるで違う噂の伝播に体の奥から力が抜けて行くような気がした。


「まさかそんな噂が……」


 いつだって惣太は注目を集めないように注意していた。だというのにそのような噂が流れる事実に、やるせなさや、悲しさが込み上げてくる。


「鞠華にしてもバドのパートナーなだけだし、紬もESS部の同期で、由紀はもうご存じの通り家族なんだけどな……」


 だというのに、そのような噂が流れてしまう。


 ということはもう、今までの努力は雨ごいの祈祷のように神の領分に対する無意味な抵抗でしかないのではないだろうか。


「まぁお前がそう言い切るなら良いが……」


 がっくりと落ち込む惣太にやれやれと久志は頭を掻いた。


「周りがどう感じるかは周り次第だ。惣太、夜道には気を付けろよ……」

「お、おう……」


 事実よりも心証の方がずっとが大事。


 それは嫌でも認めざるを得ない人間の真実で、惣太は頷くしかなかった。


 全く、厄介なことになったものである。


 由紀の男問題や、由紀繋がりのバッシングに、根も葉もない、悪意ある切り取りで作られた噂で良いように言われてしまうとは。


 もう由紀が転入してからこっち、心労でどうにかなってしまいそうだ。


 どうしようもない実情に、惣太はふぅ〜〜〜〜〜っと大きく息をつくのだった。


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