第19話 由紀を狙う4人の男たち





 由紀を本気で狙う男4名。


 それはクラス一のイケメンである松橋に、その親友のお調子者の竹田。


 バド部の部長である西山先輩に、バスケ部部長の安藤先輩である。


 きっと目に入っていないだけで他にもいるのだろうし油断も出来ないのだが、視界に入る中で目立つのは彼らなので、まずマークすべきは彼らからに違いない。


 試験範囲全ての知識は必要かもしれないが、過去問周辺の知識が重要に決まっているのに理屈は近い。


 と、いうわけでまずは松橋から見てみよう。


「やぁおはよう由紀」

「おはよう松橋くん」


 松橋は毎朝由紀に話しかける。


 それはもう毎朝犬の散歩に行くだとか、そんな日課のように毎日繰り返される風景だった。


 イケメンと美女という何人にも侵されない聖域で仲睦まじげに話す。


「今日もサッカー部あるの?」

「ほぼ毎日のようにあるよ。由紀も入れば良かったのに」

「私はマネージャーはいいかな〜。自分で動きたいし」

「そうか、由紀がベンチにいたら百人力なんだけどなー」

「ははは、それは残念だったね」

「残念過ぎるよ。あ、ところでさ、明日日本代表の試合あるじゃん? そのチケットあるんだけどもし良かったら一緒に行かない?」

「うーん、それはちょっといいかなー。用事がね、ちょっとね……」


 クラス一のイケメンからの誘いを由紀はやんわりと断っていた。


 そしてその翌日の試合がある時間帯のことである。


 由紀は試合を観戦していた。


 用事無いじゃん!! 


「松橋のやつ、どうして行かなかったんだよ?」


 あんなにも申し訳なさそうにしていたのに……、嘘八百にも程がある。


 自分も騙されてんじゃないかと訝りつつ、試合だ試合だと小躍りする由紀に尋ねると、由紀の返事はあっけらかんとしたものだった。


「そりゃ家で惣太とサッカー見てる方が楽しいから!」

「そ、そうか……」

「惣太だって私と観戦した方が楽しいでしょ!」

「ま、まぁ、そうだが……」


 確かに楽しいけど、それを素直に言うのは恥ずかし過ぎて顔を赤くする惣太であった。


 次に竹田だ。


「由紀ちゃんオッスー」

「おはよう竹田くん」


 竹田もほぼ毎日由紀に話しかける。


 だが竹田は松橋のように単体で話しかける、というよりも松橋や梅森、鹿田や猪上といった、クラスの中心メンバーの会話に由紀を引きずり込んでその中で話すという形式が多い。


「竹田あんたまた寝坊したの?」

 

 一限目の途中に竹田は「うーっす」と軽いノリで教室に入って来たのだ。それを猪上は休み時間に揶揄する。だが竹田は欠片も堪えていないようだった。


「昨日タクティクルウォーのアプデがあってさー」

「だからなに? それずっとやってたわけ?」

「そうだよ! 男はやるっきゃねーときがあんのよ!」

「ばっかねー、ね、皆そう思うでしょ?」


 猪上に促され、「馬鹿だなー」とか、周囲がハハハと笑う。


 それに「そんな、マジないわー。おもろいんだから良いじゃんよー!」と竹田がおどけていると「そんな楽しいの?」と由紀が会話に入った。


「そりゃマジよマジ! 精神トブから!」


 由紀に食いつかれて竹田は俄然勢いづいた。


「へーそうなんだ」

「由紀ちゃんもやらない?」

「いや私は良いかな〜」

「そっか~~残念。由紀ちゃんゲームしないの?」

「いや惣太とは軽くはするよ? でももっぱらゲームは見る専だね」

「あー、ゲーム実況か。分かる分かる面白いもんね。誰見るの?」


 由紀の言わんとしていることを察し竹田が尋ねると、「あ、いや……」と由紀は言葉を濁した。


「誰っていうか惣太がやってるのを後ろから見るんだけど……」

「へ、へ〜〜」


 惣太と仲が良い事の裏付けでしかない言葉に、竹田から驚嘆のため息が零れた。

 周囲の男たちも似たような反応だ。


「ホント仲良いよね由紀と深見っち」

「そんなことないよ〜」

「いやいやそんなことあるって!!」


 一方で同年代なのに仲が良い二人に猪上たちは大興奮で、二人の仲を肯定されて由紀は嬉しそうにしているのだった。


「でも、もー、惣太ホント変態なんだよ?! 必ず巨乳のキャラ選ぶの。もーそれがほんといやでさ〜〜!!」


 なぜ由紀の照れ隠しで自身の性癖を暴露されなければならないのか。


 惣太の疑問は尽きない。

 

 教室の外でも由紀には有象無象が話しかけてくる。


「えーうそー」

「いやホントだって! 今度一緒に行こうよ」

「いやーどうしよっかなー」

「まぁいいや。考えておいて」


 トイレからの帰り道由紀に話しかける男を見つけ、その後ろ姿に惣太の背中に電気が流れた。


 金髪にピアス。制服をだらしなく着崩している風貌。あれは――


「お、おい由紀お前」


 校内でもガラが悪いと噂の男が由紀に話しかけていて、即座に惣太は由紀の肩を叩いていた。


 由紀は不思議そうに振り返る。


「あ、惣太だ。どしたの?」

「どしたのって、お前、アイツやばいぞ、あんま良い噂聞かないぞ」

「え、なに? 私のこと心配してくれるの惣太?」


 しかし惣太の危機感をよそに、惣太に心配されて由紀は目をキラキラと輝かせた。


 惣太に心配されたのが相当嬉しいらしい。


 いやでも今はそういう局面では無いのだけど……。


 だが好意の露出で由紀に喜ばれるのも癪で「あ。いやそそういうわけじゃないけどそりゃ家族だし」とうそぶくが由紀は惣太の反応が大満足なようだった。


「そっかー心配してくれるのかー。ならやめよっかな? 実は押しが強くて困ってたんだよね」と腕を組みうんうんと思案していた。


「そ、そう……」


 結果として由紀が変な奴と付き合わないのならそれで良いと思う惣太である。




 話は本筋に戻り次は西山先輩だ。


「やっぱり僕ら、相性良いみたいだね」

 

 今日も懲りずにバド部の休憩時間で試合をした由紀に、由紀とペアを組んでいた西山先輩は言っていた。


 ついに西山・由紀ペアは、惣太・鞠華ペアに勝利したのだ。


 だが「ハハハ。でも惣太の方が相性良いですよ、惣太と組んだらもっと凄いですよ」と由紀はにべもない。


「なんで負けちゃったんですか!?」

「ちょ、調子でなかったんだよ!!」


 一方で惣太は鞠華に敗戦の責を負わされて由紀の言葉に頬を緩ませるどころではなかったわけだが……。


 残りは安藤先輩だが、彼もわざわざ二年の廊下にまで来て「今度一緒に買い物いかね?」と由紀を誘うも


「その日は惣太と買いものなんですよ~」と拒絶され玉砕していた。


「?! た、ただの飯の買い出しだぞ?!」


 安藤先輩が玉砕する横で、由紀と買い物、そのワードに目くじらを立てる友人たちに惣太は必死に弁明するはめになっていた。



 と、いうわけで以上が目立つ4名の動向なのだが、このようにあまりにも脈がないのだ。


 昼休み、由紀や親友たちと机を囲みながら惣太は物思いに耽っていた。


 結局自分の心配は無用なのだろうか……?


 だが松橋の件もある。由紀の嘘は分かりにくい。いつのまにか恋仲の男がいてもおかしくはない。


 と、う~ん……、と唸っていると「お前は由紀ちゃんといつも一緒で幸せもんだよな~。こうして昼飯も一緒だし」と幸次がしみじみと言っていた。


 何か含みのある言い方にも感じるが、確かに、由紀という超美少女の義妹と、美味しい昼飯を一緒に食べるというのは幸せなことに違いない。


「はは、そうかもな」と惣太が控えめに返すと「伝わってね~な~~!」と幸次は髪をかきむしっていた。


 由紀も「だね? そういう意味じゃないのにね?」と同調する。


 しかし由紀の示す意味が分からず惣太はフンと鼻息一つつくと、由紀はやれやれとあからさまに呆れて見せるのだった。




「そういや今度バドのお前大会あるんだっけ?」


 結局自分に出来ることは由紀に彼氏が出来ないように、警戒することだけだ。


 そう決意を新たにしていると久志が言う。


「あぁ、あるよ」


 それに惣太が肯定で答えると、隣の由紀はごくりと生唾を飲み込んでいた。


 だが物思いに耽っていた惣太はそれには気づかない。


「それが?」

「いやなんでもないよ?」

「?」


 はぐらかす久志に惣太はキョトンとしていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る