第13話 疑惑を持たれる

本日2話更新します!!


―――――――



「ホラ! 行くよ、惣太!」

「分かってるって……」


 それからも由紀との騒がしい日常は続いている。


 由紀と連れ立って歩く惣太に向けられるのはいつだってやっかみの視線だ。


 この視線が収まる目途は未だつかない。


 俺を見るんじゃねぇぇぇ〜〜〜!!! と言おうものなら火に油を注ぐこと請け合いなので、面倒なことこの上ない。


 しかもまたその混沌に由紀の部活見学により新たな変化が加えられつつあった。


 由紀が多くの部活に訪れたことにより、実際に由紀と話したことがある生徒が激増したのだ。


 少し話したことがある生徒など、既に数百人に上っており、『親しくなった』と思っている生徒も100人は下らないだろう。


 全生徒数1000人くらいのこの高校で、その数字は驚異的なものだ。


 それだけの知り合い、もしくは親しい友達、がいて、外見も可愛いとなれば、廊下を歩けばそれはもう大事である。多くの生徒が代わる代わる由紀に話しかけて行く。


「あ、おはよう由紀さん!!」

「おはよう、黒瀬くん」

「由紀さん、今日の放課後はどう? 空いてる?」

「う~~ん、陸上部の部活見学まだだからな~」

「由紀ちゃん、今日の放課後、待ってるからね!」

「うん、授業終わったらすぐ飛んでくから!」


 こんな風に下駄箱から教室までのわずかなストロークで20回近く話しかけられるような状況だ。どう考えても異常である。


 しかし由紀は「まぁいつものことだから」と努めて笑みを作り


「おっはよ~~~!!」

「おはよ~~香恋、陽子! 杏奈!」


 今日も、蝶谷や猪上など騒がしいグループに混ざっていくのだ。


 疲れをおくびにも出さない由紀のタフネスに、家族ながら惣太は舌を巻いていた。


 で、この由紀が多くの生徒と関わりを持ったという事実が、惣太の日常生活に変化をもたらしているというわけだ。


 皆が由紀と仲良くなった結果、由紀の義兄である惣太にまで皆が気軽に話しかけるようになったのだ。


 由紀と俺は仲が良い。ならば由紀と家族の惣太にも気軽に話しかけて良いはず、という謎の式が生徒の間で広まっているのだ。


 由紀と連れ立って歩いていたりすると「おい、深見! 由紀さんの家族なんだからちゃんとしろよ!」とか「何で眠そうなんだよ!」とか周囲から余計なおせっかいをされるのだ。


 寝不足なのは昨日夜遅くまで勉強していたからだし、別にこちらを批判したところでお前が立派になるわけではない!! と言い返したいが、そんなことをしたところでどうせ別の理由で責められるのがオチなのでぐっとこらえる。


 体育の持久走などでは酷いものだった。


(ていうかなんでそもそもこの時期に持久走なんだよ……!)


 季節外れ甚だしい内容に惣太が、なんで冬場じゃねーんだよ!! とぐちぐち言いながら走っていると、皆追い抜きざまに「おっさき~~!」とか「おいおいどーした深見、調子悪いのか?!」などと煽ってくる。


 それに何故昨日、自分は遅くまで勉強してしまったんだと、先に立つ事のない後悔に歯を食いしばり走っているとついには先頭集団に周回遅れにされそうになる。


 何とかそれだけは避けたいと惣太は必死に走るが、無駄な抵抗だった。


「さ、気合入れて走りなよ深見くん」

「そうだぜ! 由紀ちゃんの義兄が情けねーぞ!」

「周回遅れだぜ深見」


 先頭集団の松橋や武田、梅森はここぞとばかり惣太は煽ってきた。


 腹立たしい事この上ない。


 そしてこのように大衆と由紀や惣太の距離が不用意に縮まった結果何が起きたかと言えば、


「なぁ深見、お前由紀さんとは何ともないんだよな」

「ねぇ、中川さん、深見君とは実際どうなん?!」


 公然と二人の関係をいぶかしむ声が上がるようになったのだ。


「「ないない」」


 その実態の伴っていない噂話を、二人は揃って否定した。



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