第8話 騒乱



 あれから酷い状況が続いた。


 真実を知られた惣太は、お前マジなの!? マジなの?! お前何やっちゃってんの?!?! 死ぬの?! 死ぬの?! と男子たちにもみくちゃにされ、やべー! あいつだぜ!! と誰かが駆けだし伝播させ、帰りの段階で多くの生徒に見られまくった。


 由紀は由紀で、え、ホントになの?! ホントに?! 義妹なの!? と女子に囲まれ聞かれまくり、それを肯定し、教えて! その話詳しく聞かせて!! とせがまれるのをそのままにし、学校を後にしていた。


 二人が群衆を引きつれ校舎を横切っていくのは二大台風が日本列島を縦断していくようでもあった。 


 その狂乱具合は筆舌に尽くしがたいもので、何でだああああああ! と惣太は頭を抱える。

 何でこうなってしまうんだと不満しかない。


 家の両親は

「え、ばらしちゃったの?!」

「うん! もう無理かなって」

「まぁ無理あるよなぁ」

「だよねぇ……」

 と、頬に手を当て茶をすする、のほほんとした受け止めだったが、現場はそんなのんきでいられる状況ではないのだ。


「いやでも一大事なんだけど?!」と、ドンとテーブルを叩き生徒の内面も分かる惣太は抗議する。

 だがそれも「まぁ由紀ちゃんと家族なんだから仕方ないんじゃないの?」と軽く流されてしまった。


 いやそうだけど、納得出来ないこともあるだろ?! 


 惣太の想いはこの家族には届かない。


 ◆◆◆


「お前マジか!!!? マジなんか!!!」

「お前ホントなのか中川さんと家族って!!」

「う、うん……!」


 そんなわけで翌朝登校するや否や、案の定、惣太はクラスで親友に詰め寄られていた。


 息せき切って尋ねられた惣太は「お前さぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!! 大変なことになってるんだけど!?」と由紀に詰め寄るが、たちまち「由紀さんにお前とは何事だ!」と叱られてしまった。何事も何も家族なんだからため口くらい良いだろ!! と言いたいのは山々だがそれをすると事態が悪化しそうなので必死に堪える。


 それらやり取りを経て惣太が由紀の義兄であると判明すると久志と幸次は頭を掻きむしったり天を仰いだりしていた。


「お前!! して良いことと悪いことのボーダー考えろよ!?」

「じゃぁ、あんなことも? そんなこともしたってのか?!」

「お前変な妄想してんじゃねーよ!!!」


 エロの絡む言説は日常生活に悪影響しかもたらさない。


「いや誰だってするだろそんなもん!!」

「そうだぞ!! お前、俺達を変な奴みたいに言うんじゃねーよ!!!」


 しかし彼らは聞く耳を持たず惣太を非難し返していた。


 一方で由紀も由紀で大変な状況だった。

 

 だが由紀は惣太とは違い、恋愛関連で女子にピーチクパーチク言われているような感じだが……。


「中川さん、中川さん?! 深見君と家族ってホントなの?!」

「うん、ホントだよ?」


 由紀の肯定で、キャアアアアアアアア~~~~!!!! 歓声が沸き起こった。


「いつから?! いつから深見くんと同居してるの!?」

「小一かな? 小一の夏に出会ったの!」

「そんな昔からなの?!」

「うん! だからこんなちっちゃかった時から知ってるよ!」


 胸の下に手をやり目を線にする由紀に女子たちはイヤァ~~~! っと黄色い悲鳴を上げていた。

 

 その後も質問は止まらない。


「ていうか何で中川さんっていうの!? 深見君は深見くんだけど?!」

「ハハハ、小学校一年生の時に親が再婚してね、それ以来ずっと旧姓使ってるんだ。小学校と中学校メンツ殆ど一緒だったから……。で、高校も、何となく……」

「へぇ~~、じゃぁ本名は深見由紀なんだ!」

「そうだよ。でも学校ではこれからも中川で通すから中川で宜しく!」


 オッケ~と間延びした返事で順応していく女子たち。


「あ、ていうかここに来たのも深見君がいるからなの?」

「まぁね、これまで惣太とは小学校も中学校も違う学校だったんだけどそろそろ一緒の高校通って一緒に青春してみても良いかなって」

「うそ~~~!! ホントにぃ~~~~??!!!!」


 桃色の内容しか想像できない由紀の返事に女子たちは盛り上がっていた。


 いやまぁ、俺がいるから転入したって言ってくれるのは嬉しいんだけどさぁ……。


 でもそれもこれも義理の兄妹だからであって特別な意味は無いのだけど……。


 と、思っていると、周囲はそんな適切な受け止めをするわけもなく、


「お前……」

「死ぬ覚悟は出来てんだろうな、惣太」

「あ……、いや……」


 親友たちは青筋を浮き立たせていて、惣太は自身の悲惨な運命を悟った。

 

 それから始まったのは惣太の誹謗中傷だった。


「お前は前からそうだよなぁ!!」、とか、「いっつもどこか余裕そうでよぉ!! 前から彼女欲しいっていう俺らを内心せせら笑ってたんだろ!?」、とか、考えられうる全ての悪辣なレッテルが貼られる。


「前からお前は鼻持ちならない奴だと思っていた」、とか、由紀関連から外れた惣太の日常的なふるまいですら、あれが不味い。これが不味いとダメ出しされ続ける。


 そこに周りの男たちからも、そうだそうだ! とやじが飛ぶ。


 それに、やめてーーーーーーーーーーーー!!!! と心の中で悲鳴を上げる惣太だが、やむわけもなく公開処刑は10分近くにも及んだ。


 そしてあらかたの弾を打ち尽くした彼らは、はぁ……、はぁ……、と胸を上下させ――


「と、まぁ、色々言ったが……切れても仕方ないよな……」

「あぁ」

「え゛?」

 突然矛を収めたのだ。


「だって、中川さんと同棲してるのは仕方ない事ことだろ……」

「惣太には選べないことだもんな……」

「あ、あぁ、そうなん、だけど……」


 何で急に聞き分けが良くなっているの……? と惣太が戸惑っていると、その肩に幸次の手がぽんと置かれた。何だと思っていると彼は薄っぺらい笑みを浮かべた。


「だから、じゃ、連れしょん行こうか、…………?」

「え」

「あぁ、一緒に行こうか、にいさん……?」

 追随する久志。

「あ、いや……え、に、にいさん……?」

「そりゃぁ、『義兄にいさん』だろ、なぁ? 『惣太そうた』……?」


 ヒェ……!


 別に許されたわけじゃないッ!!


 ミシィ! と、強くなる親友の握力に、瞳孔が開く目に、ひぃ~~っと惣太は縮み上がった。


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