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作戦タイムが終わり、両チームとも席に戻った。
録画を再開し、否定派からの反駁のはじまりである。
「肯定派は、運動会だけが能動意識を明確にできるものと発言しましたが、運動会以外でも、たとえば勉強や部活動、委員会の仕事などでもいいのではないですか」
李厘からの質問をきいて、怜雄はすぐさま陽介の顔を見た。
陽介は落ち着いて答える。
「たしかに、おっしゃったようなことからでも『自分が好きでやっているんだ』と思うことで能動意識を明確にできるかもしれません。ですが、ぼくたち子供の本分は勉強です。小中高校、大学へと進んでいく中で、先生や親たち大人は必ず、『勉強しろ』『宿題をやりなさい』と言ってきます」
勉強、という言葉を聞いて怜雄は、苦いものを口に入れたみたいな眉間にシワを寄せた表情みせる。
陽介は気にせず、説明を続けた。
「つまり、これまでもこれからも、『誰かに強いられてやらされている感』は続くでしょう。なにより、現在コロナ禍です。学校行事でなく、店の営業や人の行動まで制限されています。大人でさえ強いられているのです。ぼくたち子供も同様なため、さらに能動意識を明確に持つことができない状況にいます。はたして本当に、他のことで能動意識をもつことができるでしょうか」
李厘は蘭華を見、小声で何事かを話し、小さくうなずいた。
「肯定派はそういいますが、大規模クラスターが発生する危険がある中で運動会を行うのはあまりに無謀ではないですか」
「危険を恐れていてはなにもできません。自動車や電車、飛行機が事故を起こせば大惨事となり、たくさんの人が亡くなります。だから車や電車や飛行機に乗るな、引きこもっていろというのですか。違いますよね。整備を怠らず、みんなが安全運転すれば事故を防げます。運動会も同じように行えば、できるはずです」
陽介が言い切ったとき、蘭華は李厘にルーズリーフを一枚、手渡した。李厘は一瞥し、うなずく。
「ですが、運動会でなくてもいいのではないですか。日本のように盛り上がる運動会は、海外の学校にはないのが特徴です。アメリカに運動会はありませんが、フィールドデーという子供が自由に参加して運動する行事があります。イギリスにもなく、スポーツデーという校庭に用意された競技をグループごとに行う、二時間くらいの行事があります。フランスにはそういった行事もありません。韓国には運動会はありますが日本のように練習することなくいきなり本番を迎え、学校によっては全校生徒が参加することもあるけれど、学年をわけて別の日に行うところもあります。中国はオリンピック形式で行うので、予選会を勝ち残った人が出場できるため全校生徒で行うことはしません」
否定派が調べてきた内容を聞いた陽介たちは、「そうなんだ」と言葉を漏らした。
海外の運動会について調べようとも思っていなかっただけに、圧倒されてしまう。
「これら海外の子供たちは、能動意識を持っていないのでしょうか。決してそんなことはないはずです」
陽介は額に手を当てた。
痛いところをつかれてしまった。
このあと、どう言い返せばいいのか思いつかなかった。
そのとき、
「海外と日本は、教育のやり方がちがうんじゃねーの?」
怜雄の発言をきいて、
「それだ!」
陽介は思わず声を上げた。
「怜雄くんの言うとおり、国が変われば教育制度も異なります。なので、安易に他とくらべるのは乱暴だと思います。それに制度そのものをすぐに変えることは、ぼくたちにはできません。できる範囲の中でかんがえたとき、全校児童が参加できて先生たちや親、みんなが参加できる場である運動会こそ、『自分たちがつくっているんだ』という能動意識を明確にできるのです」
ありがとう、と陽介は怜雄に礼を言った。
さあ、今度は肯定派からの反駁のはじまりだ。
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