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「否定派に質問します。新型コロナウイルス感染のクラスターをつくらせないためにも運動会を中止して密を避けると発言しましたが、学校の授業も公共機関も人が集まるところも、どこでも密になるので駄目ではないのですか」

 陽介の質問に答えたのは蘭華だった。

「学校では、うがい手洗い除菌に心がけ、マスクを着用して換気を忘れず授業を行い、給食も、ついたてを使って黙食をしています。公共機関を利用する人達もマスクをつけ、店頭での除菌、帰宅したらうがい手洗いなど、感染対策を取っています」

 蘭華ではなく李厘だったら攻めやすいのに、と胸の中でつぶやきながらも、気持ちを切り替えて陽介は投げかける。

「つまり、同じように感染対策を万全にすれば運動会もできるということになりますよね」

 蘭華は押し黙る。

 心配したのか、李厘は彼女の顔を覗きみた。

 大丈夫、と李厘に聞こえる声で蘭華はつぶやき、くいっと、眼鏡の真ん中を人差し指で押し上げた。

「つねに気をつけていられるほど、誰しも人は完璧ではありません。ちょっとした心の油断、これくらいならいいだろうといった、本来とは違うマイルールを作って感染対策をしている人がいるかもしれません。そのマイルールが感染対策になっていれば問題はないのですが、鼻を出してマスクをつけたり、マスクをしているから大丈夫といって密集して話したり、油断の積み重ねが結果として感染を広げてしまう可能性をつくってしまいます。これさえしていれば絶対大丈夫、といいきれるものは少ないです」

 陽介は圧倒されてしまった。

 いつもの温和で大人しい蘭華とは別人みたいだ。

 ひょっとして、普段は表に現れていないだけでこれが素の彼女なのかもしれない。もちろん、用意された原稿を元に言葉を並び立ててるのだろうけど。

「少ないだけで、できない理由にはなりませんよね。現に、僕たちの学校ではこれまで、新型コロナウイルスの感染者はでていないのですから」

「学校でこれまで出ていないからといって、明日もこの先も大丈夫という保証にはなりません。明日はまだ、誰のものでもないのですから」

「ということは、感染対策をして運動会を開催しても大丈夫ということですよね。明日はまだ誰のものでもないのですから」

 双方、反駁がおわると、これまでのやり取りをまとめてから最終弁論に入った。

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