5
昼に止んだと思った雨が再び降り出し、窓を打ちつけている。
放課後の教室にいる陽介は、怜雄たちと机を動かしながら、「ひどくなる前に、さっさと終わらせて帰ろうね」と声をかけた。
「そのつもりだよ」
怜雄は自分の机を、陽介の机の横にならべると、ドカッと椅子に座った。
「そうね。さっさとはじめましょ」
向かい側に机を並べた蘭華と李厘も、すぐに座った。
陽介はタブレットを立てかけ、自分たちの席が映っているが画面を確かめてから録画をはじめた。
「それではよろしくお願いします」
陽介の掛け声にあわせて、両チームは向き合ってお辞儀した。
「ぼくたち肯定派は、運動会をするべきと主張します。なぜなら、オリンピックは開催するからです」
陽介はルーズリーフに目を落としながら読んでいく。
「調べたところ、運動会を行うには二つの目的があります。一つは、『個人として今の自分の一生懸命の力を運動会という場で表現する』ことです。なぜなら、それは自分自身の成長であり、順位は関係なく、見に来た人が見たいものだからです。二つ目は『仲間と協力して運動会をつくる』ことです。理由は、高学年として更に成長していくために、ただ係活動をした、一緒に応援したという低学年のレベルから『自分が運動会をつくっているんだ』という能動意識を明確にするためです」
陽介が読み終えたあと、つぎに怜雄が手元のルーズリーフをゆっくり読みはじめた。
「どうしてオリンピックを開催するなら運動会をすべきなのかというと、『オリンピックで重要なことは勝利することより、むしろ参加すること』だからです。俺……ぼくたちが調べたところ、近代オリンピックの父と呼ばれ、国際オリンピック委員会初代事務局長を務めたピエール・ド・クーベルタンは、『勝つことではなく、参加することに意義があるとは……なんて読むだ、これ」
隣に座る陽介は、怜雄のルーズリーフを覗き込む。
彼が指さす箇所を目で追っていく。
「これは、『しげん』だよ」
「おっ、そうか。えー、『至言である。人生において重要なことは、成功することではなく、努力することである』といっています。この言葉からもわかるように、ただ勝てばいいわけではなく、参加して、純粋に勝つために正しく努力することに意義があることがわかります。これは、ぼくたちが行う運動会とおなじ目的です」
なんとか読み終えると怜雄は、ふう、と息を吐いた。
お疲れ様、と声をかけた陽介が、まとめを読み上げる。
「どのような条件だろうと、いまの自分の力をすべて出し切り、仲間と協力して運動会をつくったという実感をもつことで自己評価を高まり、今後のぼくたちの成長により良く活かされていきます。このようなメリットがあるので、運動会は開催すべきです」
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