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「そうだ。陽介くん、思いついたよ」
蘭華の言葉をきいて、「本当?」と陽介は聞き返す。
うなずく彼女。
「どんな方法?」
「ディベイトをするの」
蘭華の言葉が耳に入ったのか、怜雄と李厘は互いに眉間にシワをよせて陽介たちに目を向けた。
「お前ら、なにするつもりだ」
「蘭華、何の話してるの?」
強い口調で声をかけてくる二人の勢いに怯えたのか、蘭華は肩をすぼめて伏目がちになってしまう。
「えっと……宿題、そう、宿題だよ」
彼女の助けに入る陽介は、とっさに出てきた言葉を口にした。
「そんな宿題あったか」
怜雄は李厘にたずねる。
どうだったかな、と首をかしげる李厘。
知らないよとはいえず、陽介は思わず蘭華にどうしようと目を向ける。
「ちょっと違うけど、グループ発表の宿題が出てるよ」
よどみなく答えた蘭華の言葉に思わず、
「あっ」
と、陽介たちは声を上げた。
先週、独自のテーマを決めて各グループごとにまとめるグループ発表の宿題が出されていた。
その締め切りは、今週末だ。
「そういえば……あったね。忘れてた」
頭をかいて蘭華に頭を下げる陽介。
怜雄と李厘は、彼女と目を合わさないように顔をそらしている。
グループ発表の宿題が出たのには、そもそも理由があった。
陽介は、四月のあの日を思い出す。
あれは……六年一組がスタートした日。クラス担任の勝子勝男先生が、ハキハキした口調で一組のみんなにこう言った。
「早速ですが、これから一年間、皆さんにはグループごとに勝負をしてもらいます」
ガッチリした体格をしている勝子先生は、五年生のときも担任を受け持ってくれた。
だからみんな知っている。
底抜けに明るく元気で、クラスのみんなを誰よりも思ってくれる先生だってことを。
喧嘩をふっかけるように競い合えだなんて、五年生のときは言わなかったのにどうしちゃったのかと、みんなは戸惑ってしまった。
そんなクラスのみんなを前に勝子先生は、続けてこう言ったのだ。
「六年生になったばかりですが、皆さんは来年、中学生になります。いままで以上に、自分のやりたいことや目指す場所へ向かっていくでしょう。自分よりもすごい連中と渡り合っていかなければなりません。でも、準備もなしにいきなりでは負けてしまいます。なので、勝ち抜いていく強さを少しでも身につけていってほしいのです」
そのためにも、一グループ四人ずつにわかれて、他のグループといろいろな勝負をして競い合うことになったのだ。
相手を傷つけたりおとしめるような嫌がらせをしたりするのはもちろん駄目だけれど、誰かに迷惑をかけない最低限のルールやモラルを守るならどんな事でも競い合っていい、という勝子先生からの提案だった。
わかりやすいところだと、昼休みのドッヂボールやテストの平均点勝負など、毎日どこかのグループ同士で勝負していった。
もちろん、先生からクラスのみんなに勝負内容が与えらえれることもある。
今回それが、「グループ発表」だった。
陽介のグループは、まだ勝てていない。
運動なら走るのが苦手な陽介と蘭華が足を引っ張り、勉強だと怜雄と陽介がお荷物となり、先日の提出物の勝負は怜雄と李厘が学校にもってくるのをうっかり忘れたという痛い失態をおかしていた。
蘭華の話によれば、他のグループはすでにグループ発表の準備に取りかかっている。
テーマすら決めていないのは陽介のグループだけだった。
「これは、由々しき事態だね」
陽介の言葉に、「そうね」と李厘がうなずく。「今度こそ勝たないと。怜雄、わかってる?」
李厘の目が怜雄に向けられる。
「わかってるよ、そんなこと。お前だってこの前、忘れただろ」
「わたしは、ノートをカバンに入れ忘れただけで……宿題はちゃんとやってたんだから。宿題まで忘れたあんたと一緒にしないで」
「うっせーな。お前も忘れたんだから、大して変わんないだろ」
「ぜんぜん違うっ」
「違わないね」
「なにを、またやる気!」
「よーし、受けて立つぜっ」
声を張り上げて立ち上がる二人。
「もう、いがみ合うのやめてよ。ぼくらのグループ、また負けちゃうよ」
陽介は慌てて、二人を止めた。
「また負ける」という陽介の言葉を聞いて二人は、にらみあったまま、おとなしく席に座った。
「それで、ディベイトってなにやるの?」
李厘は蘭華にたずねる。
「他のグループから出遅れているわたしたちには、時間がありません。グループ発表は今週末。なので、ディベイトのやり取りをまとめたものをグループ発表にするのはどうかな……」
「ぼくは賛成」
陽介が小さく右手を上げた。
すると、
「俺は嫌だね」
怜雄は腕を組んでふんぞり返る。
「なんだか難しいやつじゃん」
「わたしは賛成」
李厘が右手を上げる。
「怜雄が嫌がるのは、三対一になるって思ったからでしょ。ちゃんと二対二にわかれて討論するから大丈夫だって」
「ほんとか?」
「怜雄は楽することだけ考えてるんでしょ」
「バレたか」
えへへと笑いながら、怜雄はそっと右手を上げた。
こういうとき、はっきり言ってくれる李厘がいてくれてよかったと陽介は思った。
「それじゃあ、ディベイトの議題は『オリンピック開催するなら運動会も開催するべきである。是か非か』にするね」
陽介の提案を聞いた怜雄は、「もちろん」とうなずく。
「じゃあ、怜雄と陽介くんは肯定派。わたしと蘭華は否定派ね」
李厘の言葉で、勝手にチーム分けが決まってしまった。
二人を仲直りさせるために怜雄と李厘をおなじチームにしたかったのに、もう遅い。
「陽介、俺たちでアイツらをブッ倒してやろうなっ」
「なに言ってるのっ。返り討ちにしてあげるんだから」
「いったなー、あとで泣いて謝っても知らないからな」
「誰が、怜雄なんかに負けるもんか」
いまにも飛びかかって喧嘩しそうな二人の姿を見たら、チーム編成のやり直しなんていい出せそうもなかった。
一緒に調べ物をして蘭華と仲良くなりたかったのに……と思えば思うほどうなだれてしまう陽介に、「がんばってね」と蘭華が声をかけた。
「も、もちろんがんばるよ!」
「陽介くん、残りの昼休みをつかって準備したいから、ディベイトは放課後にしない?」
蘭華の申し出に、陽介は迷うことなくうなずいた。
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