10 さあ、魔王の城に突入ですわ!
私はいったん町を出ると、身を隠せる程度の灌木の茂みを見つけ、そこで身支度を調えることにした。
1ヶ月、慣れ親しんだ庶民の服を脱ぎ捨て、令嬢らしいドレスに久しぶりに袖を通す。
髪を一人で結い上げるのは、一苦労だったが、これもなんとか、前世の記憶を使いクリアした。
侍女に身の回りの世話をされた経験しかない、ごくふつうの令嬢なら、無理だったろう。
完璧に結い上げることはさすがに難しかったが、今回の設定なら、多少、髪が崩れていた方が、よりリアリティが出るはずだ。
次に、私は、城の主門を守る門衛のステータスを確認した。
はったりにごまかされるような知性の持ち主でないと難しい。
さらに、はったりが通じなかった時のため、できるだけ体力や筋力の低い者がいい。
理想的なステータスを持つ門衛が現れるまで、私はしばらく、門の近くで待つことにした。
ずっと、門に貼り付いていては怪しまれてしまう。
単なる市民の振りをして、街路を歩きながら、各門に配置された門衛たちのステータスを確認して回る。
三日間、城の主門の近くで様子をうかがっていた私は、理想的な門衛を見つけることができた。
知性は7だ。
これなら、私の作り話にも騙されてくれることだろう。
彼が当番として交替したのを見はからって、私はいよいよ突入を決めた。
作り話の状況にリアリティを出すために、ドレスと顔に土で汚れをつけてから、私は衛兵の前に進み出る。
元公爵令嬢として、これまで身に付けてきた所作の限りを尽くして、とっておきの礼をした。
さらに、これまたとっておきの令嬢スマイルを浮かべ、はったりをかます。
「突然失礼いたします。私、聖カトミアル王国から参りました。エレイン・ド・サヴァティエと申します。聖堂騎士団長ジャン・ノエル・ド・ベルナールの婚約者でございます」
門衛は、急に現れた身分の高い他国の貴婦人に対し、緊張で張り詰めたような表情を浮かべつつ、敬礼をした。
優雅ではあるが、状況のリアリティを演出するため、途中、息が上がったような演技も入れつつ、私は話を続ける。
「国を代表する友好使節団の代表として、貴国まで参ったのですが、……ハァ……途中、盗賊の一味に襲われてしまいまして……、私一人だけ……なんとかここまで辿り着くことができたのです。使節団として持参した、王からの親書も、宝物も、すべて賊に奪われてしまいました……!」
私は、そこで大袈裟に泣き崩れて見せる。
「ああ、きっと、私以外の者は、皆、賊に殺されてしまったに違いないわ!」
両手で顔を覆いながら、指の隙間からそっと衛兵の様子を窺う。
──大丈夫。いける。
案の定、知性7の彼はこちらの話を信じたのか、同情の色を、その顔に浮かべている。
「このような体たらく、ヴィネ陛下に合わせる顔など持ち合わせてはおりませんが、せめてお詫びだけでも伝えていただきたく……」
「お、お嬢様、私が事情を上の者に報告して参りますから……」
(報告なんてされて、その上司が頭の回る人物だったらまずいでしょ!)
一呼吸置いて、私はまた泣き崩れて見せる。
「ああ、アンナ、私を庇って、盗賊の刃に……!」
(勝手に殺してごめんなさい、アンナ)
嘆きながら、私はその場で派手に卒倒して見せた。
(さあ、頼むわ。城門の前で倒れた身分ある貴婦人を、城内に入れないなんてことないわよね? 私を城の中に入れて頂戴!)
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