第8話

「ほう、逃げずにここまでくるとは。なかなか立派な心がけだ」


 深夜にも関わらず、多くの民衆や貴族関係者が見守っている。おそらく王子か妹が、私が処刑される瞬間を見にこいと、圧力でもかけたのだろう。その矛先が、自分たちに向けられることになるとも知らずに。


「貴様らの罪状は明白なわけだが…何か言い残すことはあるか?」


 そう告げる王子の横に、メイも腰掛けている。凄まじいほど気持ちの悪い笑みを浮かべて。


「…では、申し上げます」


 周囲が静まり返り、皆が私の言葉に注目する。


「まず、こちらのお二人をご紹介させていただきます。こちらのお二人は、犯してもいない罪を王宮によってなすりつけられ、貴族家を解散させられた、オーガスさんとオクトさんです」


 やや、民衆がざわつく。特に貴族関係者を中心に。

 しかし王子は冷静に、淡々と反論する。


「その件に関しては、正々堂々とした調査を行い、その後にきちんと精査をした上で、そう結論が出たものだ。王宮が一方的に罪をなすりつけたわけではない」


 冷静なその言葉に、騒いでいた民衆は再び静まり返る。しかし私は、王子の反論を無視して続ける。


「王宮により、犯してもいない罪を着せられた貴族は他にも存在し、例外なく全ての貴族が解散しています。…ではなぜ、王宮はそんなことをしたのか?さらに言えば、その首謀者とは、いったい誰なのか?」


「…」


 王子もメイも含め、全員が固唾を飲んで私の言葉を待つ。少しの間の沈黙を破り、わたしは口を開く。


「目的は大借金の帳消し!そうですよね!メイお嬢様!」


 途端、会場にいる全員がざわつき始める。王子とて例外ではなく、焦りが隠せない様子だ。


「こ、このわたしが借金ですって??ば、ばかばかしい!!これから処刑されるからと言って、なんでも言っていいわけではございませんでしてよ!?」


 席を立ち、大きな声で反論するメイ。そんな彼女の姿を見て、王子もまた言葉を発する。


「そ、そうだそうだ!!なんの証拠もなしに、そんな話をでっち上げよって!!なんと往生際の悪い!!」


「…ふふっ」


 わたしの低い笑い声を聞き、騒いでいた民衆が一瞬で沈黙する。再び異様な沈黙が、会場を包む。


「…それが、証拠があったのですよ」


 わたしはそう言うと同時に、例の資料を懐から取り出す。


「!?」


 途端、メイの顔色が真っ青となる。


「…この王宮財政資料の、封印された2ページにね!」


「な、なんで…それを…」


 メイの声は聞き取れないほど弱々しくなっていた。一方で王子の方は、何が起こっているのか理解できない様子のようだ。


「ここにはメイお嬢様の名義で、それぞれの貴族へ多額の金銭が贈られた記載があります。しかし一方で、貴族側の財政資料には、これらの金銭を受け取った形跡はありませんでした」


 これは事前に、ジュラが調べてくれていた事だ。


「それもそのはずです。実際に送られていたのは金銭ではなく…」


「多額の負債だったのですから!」


 再び会場が大いにざわつく。メイは下を向き、冷や汗を流しているようだ。何も反論をしてこない。


「メイお嬢様は王宮の税金で宝石や洋服の購入を行い、大きな借金を背負うこととなった。しかしそれをそのままにしていてはすぐに気づかれて大問題となってしまう。そこであなたが考えたのが、貴族に負債を一方的に擦り付けて解散させる方法です」


「なるほど…貴族が多額の負債を残して解散する場合、特例的にその負債は免除される…いわゆる徳政を悪用したわけか…」


 ジュラの言葉に頷く。…これらの証拠に加え、財政資料そのものにメイのサインが記載されている以上、もはや言い逃れはできないだろう。


「うっ…ぐっ…」


 メイは両膝を地につき、悔しくてたまらなそうな表情を浮かべている。…もはや彼女に、王族としての未来など無いであろう。

 しかしその時、思いもよらぬことが起きた。


「メイ!!!なんてことしてくれたんだ!!!」


 なんと王子がメイの体を掴み、強い口調で責め始めたのだ。


「かわいい妹だと思ってたのに!!!ずっと僕を騙してたのか!!!!」


「…ふんっバカな男。あんなみたいなやつに執着する理由なんて、権力以外にないでしょ。なんでそんな簡単なことがわからないの?」


「き、きさまああああああ」


 手を出そうとした王子を、王国兵が取り押さえる。隙を見て逃げようとしたメイもまた、王国兵に囚われた。


「はなしてよっ!!私は王族なのよっ!!あんたたち自分が何をやってるかわかってんの!!!」


 騒ぐ2人を冷静に抑え、連行していく王国兵。あまりの展開の速さにポカンとしていた私たちに、ある男性が声をかけてきた。

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