第4話
「な、なんだなんだ!!!!!!」
「メイ様のお部屋からだ!!!!」
そう、あの声の主はメイだ。その迫真の絶叫に、見張り員たちは任務を忘れてメイの元へと駆け出していく。私はがら空きとなった保管庫目掛け、疾走する。すべて計画通りだ。
トリックはいたってシンプル。私はさっきメイたちと会う前にメイの部屋に行き、彼女が苦手な虫を大量に部屋に放ってやったのだ。彼女はそうとも知らず自室に戻り、その虫の前に絶叫したというわけだ。
私はさっそく保管庫を締める鍵の解錠にとりかかる。金目のものが全くないこの保管庫に、誰かが侵入したことはこれまで一度もないため、鍵は取ってつけたような簡単なものだ。小さな工具があれば、私でもあけられてしまうほどに。
「…よし、あいた!」
いくらメイが絶叫して時間を稼いでくれているとはいえ、見張り員たちはすぐにここに戻ってくるだろう。それまでに、急いでジュラに頼まれた資料を見つけ出さなければ。
「貴族…財政…貴族…財政…あった!」
目当ての資料は保管庫のかなり奥に置かれていた。私はさっそくそれを持ち、保管庫を出ようとする。
…しかしその時、こちらに向かう二名ほどの足音が聞こえてきた。
「…!」
わずかな隙間から、二人の姿を確認する。二人は思ったよりもかなり近くまで来ており、今飛び出したら確実に見つかるほどの位置だ…
「…ど、どうしよう…」
…ジュラの勘が正しければ、この書類にはきっととんでもない秘密が書かれているはず。そんなものを持ち出そうとした所をこのまま見つかってしまっては、絶対にただでは済まない…
その間にも見張り員たちは保管庫前まで近づいてくる…
…どうしよう…
…どうしよう…
考えるも何のアイディアも浮かばないまま、ついに解錠された扉に気づかれてしまった。
「お、おい、なんであいてるんだ…!?」
「俺たち、開けたりしてないよな…!?」
まずいまずいまずい…もういっそ走り出して、逃げ切る可能性にかける方がましか…
その時だった。
「あら、ごめんなさいごめんなさい!私が解錠したんですの!!」
…あの女性は確か、屋敷の使用人を束ねるメリアさん…一体どうして…
「中を掃除するために、開けたんですの。勘違いをさせてしまって申し訳ございませんわ」
「なんだよ、びびらせやがって」
「ったく本当だよ…あーどうしようかと思ったぜ…」
「本当に申し訳ございません。代わりにというわけではございませんが、あとは私が引き継ぎますので、お二人は早めの休憩を取られてはいかがですか?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「じゃ、よろしくな」
…二人が去ったのを見て、メリアさんが私に声をかける。
「…エイプリル様、もう大丈夫ですわ」
その声に導かれるままに、私は保管庫から出る。
「ど、どうして私を…?」
危険を冒してまで、どうして私をかばってくれたんだろうか…?
「あら、近頃この辺りがほこりっぽいので、お掃除をしようと思っただけですわ。エイプリル様の方こそ、こんなところにいる場合ではないのでは?」
くすくすと笑いながら、そう言葉をかけるメリアさん。私は彼女に心の底から感謝の言葉を告げ、急ぎその場を後にする。その時私の背中越しに、彼女が声を上げた。
「必ず、勝ってくださいませ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます