第3話

「お姉様ぁ、先日の社交界は本当に楽しかったですわよぉ」


 私が途中で社交界を抜けたのは、体調不良という形で通している。にもかかわらずこの女は、嫌味たらしくこのようなことを言ってくる。


「王子の妃だというのに、体調管理もまともにできないとは…本当にみっともない…」


 心底絶望した、という表情の王子。


「お兄様ぁ、あまりお姉様をいじめないであげてくださいませぇ」


 気持ちの悪い猫なで声で、王子にそう告げるメイ。


「メイは優しいなぁ。本当に良い子だ。大好きだよ、メイ♡」


「私も、大好きですわ、お兄様ぁ♡」


 二人は本当に恋人のように、熱い抱擁を交わす。私は当然の事、周囲の使用人までも引いている様子だった。


「あぁ、メイはいい匂い♡」


「お兄様ぁ、暖かいですわぁ♡」


 そんな二人は放っておき、私は目的の場所を目指して歩き始める。昨日のジュラとの会話を思い出しながら。


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「貴族関係との財政資料?」


「ああ。なんとしてもそれを確認したい」


 話によればジュラは現在、金融関係の仕事をしているらしく、お金の流れには非常に敏感だそうだ。そんな彼に言わせれば、最近王宮と貴族たちとの間に、怪しいお金の流れが感じられるのだという。


「…だけど、証拠は何もない。ただの僕の勘だ。その反面、バレてしまった時のリスクは大きい…君にこんなことを頼むのは正直、気が引けるんだけど…」


 心底、申し訳なさそうな顔を浮かべる彼。確かにこの調査が表になってしまえば、彼も私も破滅すること間違いなしだろう。最悪の場合、命さえ失ってしまう可能性だってある。けれども私の中には、そんな彼の期待を裏切りたくない気持ち、あの王子と妹を地獄に突き落としてやりたい気持ち、そして…さっきの彼の言葉の続きを聞きたい気持ちが強く混ざり合い、私の覚悟を確かなものとした。


「私、やるよ、ジュラ。絶対に、見つけだしてやる」


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 私はいよいよ、資料保管庫の目の前に到着した。…さて、問題はここからだ。保管庫の前には見張り員が二人、厳戒態勢を敷いている。女の私じゃ、力ずくでの突破は無理だし、できたとしても後が大変だ…やっぱり、あの方法しかない。

 私は息をひそめ、ただただ時が過ぎるのを待つ。…仕掛けが機能するのは、もうすぐのはずだ。その時間がどれほど長かったのか、はたまたどれほど短かったのかは分からないけれど、ついに私の待ちわびた瞬間は訪れた。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」

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