第2話
「…エイプリルか?」
「…?」
地に腰をつき、俯いているみじめな私に声かけてくれるこの人は、いったい誰だろう…?その声に聞き覚えがあった私は、ゆっくりと顔を上げ、声の主の方に視線を移す。
「…ジュラ…なの?」
自分でも、目の前の光景が全く信じられなかった。そこにいたのは、まぎれもない私の初恋の人。…もしかしてこれは、夢なんだろうか?
固まってしまっている私をよそに、彼は言葉を続ける。
「ああ、ジュラだよ!久しぶりだね!…エイプリル、すっごく綺麗になったね…なんて、言ってる場合じゃないかな…?」
ボロボロの私の姿を見て、何かを察したのだろう。しかし優しく微笑みながら、声をかけてくれる彼。その言葉だけで、私の両眼には涙があふれる。彼はそれ以上、何も言わなかった。私がいた場所とこの姿から、状況をすべて察してくれたのだろう。
…しばらくして、私が落ち着きを取り戻したのを見て取ったのか、彼が言葉を発する。
「…君はこれからも、あの王子と妹の元にいるつもりかい?」
「…」
ジュラは完全に、私の心の内を見抜いているようだった。もはや私には、王子と一生を添い遂げる覚悟はなくなっていた。あるのはただ、あの二人への憎しみだけ…そして私を信じて送り出してくれた、貴族家のみんなへの申し訳ないという気持ちだけ…もう私には、生きる希望さえ…なくなりかけていた…
そんな私に、ジュラはとんでもない提案を持ち掛けてくる。
「…君を信じているからこそ告げる。実は今、僕は仲間たちとともにクーデターを計画している。今の王子に対する不信感は国民だけじゃなく、貴族中にまで広がっているからね。…それになによりも、僕は君をここから救い出したい…君には、心の底から幸せだと思える毎日を、過ごしてほしい…」
「ジュラ…」
私にそれを告げることが、どれほどのリスクであるかは彼もよくわかっているはず。にもかかわらず彼は、私に打ち明けてくれた。私は彼に信用してもらえていることに、たまらない喜びを感じる。…しかし、どうしても気になることが一つあった。
「…どうして、私のために、そこまで…?」
私の疑問を聞いた途端、彼は少し頬を赤くする。
「そ、それは、その…」
私はじっと彼の目を見つめ、彼の答えの続きを待つ。すると彼は私から視線をそらしてしまう。
「ま、また今度話すよっ」
彼はそう言うと、完全に顔を後ろに向けてしまう。全く意味が分からない私は、とりあえず話題を戻すことにした。
「…それで、私は何をすればいい…?」
途端、こちらを向いた彼の表情は先ほどとは打って変わり、真剣そのものだった。
「君なら合法的に、王宮の資料保管庫に入ることができる。そこで、あるものを取ってきてほしい」
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