あなたの妹には、とんでもない秘密があるようですが?(笑)

大舟

第1話

「ねぇメイ、私のお洋服に泥水がかけられていたのだけれど、犯人に心当たりはないかしら…?」


「わ、私にはわかりませんわ、お姉様…お力になれず、申し訳ございません…」


「…そう」


 何の情報も得られなかった私は、しぶしぶ彼女の部屋を後にする。そして私と入れ替わるように、私の旦那でありこの国の第一王子、ノーベが部屋に入っていく。その姿が目に入った私は、思わず扉越しに体を立て、中の会話に聞き耳を立ててしまう。


「お兄様!!お姉様が私を犯人扱いしますの!!私何にもしていませんのに…」


「よしよし、苦しかったね、よく我慢したね、いい子だ、メイ」


「えへへ。お兄様のなでなで、気持ちいいですわぁ」


「メイは、ほんとにかわいいなぁ」


 …これ以上聞いていたら、なにかの病気になってしまいそうだ。そう思った私は、そのままその場を後にする。

 …思い返せば、私がここに来てからと言うもの、あの二人はずっとあの調子だ。ノーベは妻である私の何百倍も、妹のメイを溺愛している。それを問題視する者はこの王宮に多くいるものの、第一王子の権力の前に皆口をつぐんでいる。彼の父であり私の義父のディッセン国王もまた、ノーベの妹の溺愛ぶりには手を焼いている。…しかし王子自身は優秀な政治能力を有しているため、国王も黙認せざるを得ないのだろう。


「…おいおい、なんで君の方がメイよりも華やかな衣装を身にまとっているんだ?」


 それは社交界でのこと。私が彼のために選び抜いた衣装に対する、彼の言葉だった。


「せ、せっかくの社交界ですので、王子の妻として私は…」


 私の言葉を遮り、強い口調で高圧的に彼は告げる。


「君なんかがメイより目立っていいはずがないだろう?立場をわきまえたまえ。分かったら早く着替えてこい」


「…」


 私は逆らうこともできず、しぶしぶ着替えに更衣室へと戻る。なぜかそこには、誰が好んで着るのか分からないほど、地味なドレスが用意されていた。…ドレスのそばには、メッセージカードが一通…


『お姉様にはこちらの方が、お似合いと存じますわ♡』


 …私はそのドレスをその場で破り捨て、更衣室を後にする。…遠目に、メイとノーベがまるで恋人のようにダンスをしている様子が目に入った。私は逃げるように、会場を立ち去った。

 会場の外に腰を下ろし、心地よい風を全身に感じる。…私は一体、何をしているのだろうか…

 その場で何百回と自問自答を繰り返していたその時、不意に後ろからある人物に声をかけられた。

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