第3話
流石に登り疲れたために扉を開けて部屋に入る。何階かは書いていなかった。
偶然、水が置いてある階だったらしくご丁寧に茶色い箱に〝ミネラルウォーター〟と書いてある。少し色の薄い茶色の粘着テープによって留められているが引き裂いて中身を見る。ぎっしりと水が透明な容器に入っている。
一旦水を飲んで落ち着き、部屋をよく見渡すって思い出深い内装だった。
あれは年の瀬での出来事だった。
貧民が多く住む星、通称貧民街で酷く貧しく醜い暮らしをしていた時だった。
貧民街では明るい色の雑貨は手に入らないしあっても無駄だ。ストラップをあげると喜んだ妹は自分で女らしく部屋を飾り付けしていた。それはそう、例えばこの柔らかな赤茶けた壁に描かれたユニコーン、妹がまだ今の膝ぐらいの時だ。捨てられていた電子端末から白い線を取り出して潰して糊みたいな何かで貼り付けていった。妹は画家の才能があったに違いない、形のずれたユニコーンは未来の芸術家の初発だったんだろう。
確かこの辺りに珍しく手に入った白い紙に描かれた似顔絵があった筈。
探していたすぐ背後に丁寧にコーティングされた紙があった、妹の亭主を描いた似顔絵だ。似顔絵は万緑の背景の上に描かれている。貧民街にはこんな光景のところはまずない、星全てが黒煙で覆われて陽が出ている日でも森は汚く黒ずんだものでこんな明るい緑色は存在しなかった。全て妹が想像で書き上げたもの、亭主の左頬には後々弾傷が深く刻まれるためこの絵は凛々しい顔付きだったルンの最後の絵だろう。
………過去に囚われるわけにはいかない。
水を幾つか持って扉を開けて階段を登る。心なしか少し低くなっているかがする。
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