初秋刀魚を食す

おうすけ

第1話

 ついに私が心待ちにしている初秋刀魚が水揚げされた。

 近所の魚屋で卸したての秋刀魚を買って帰る時が一番高揚する。

 まな板の上に置いてみると銀色に光る皮と黒々とした艶のある目が新鮮さを物語っていた。

 

 秋刀魚は中庭で七輪をセットして炭火で焼くのが私の流儀。


 パチパチと心地よい音を立てながら銀色の皮が少しづつ焼かれていく。皮の隙間からジュワジュワと滲み出る肉汁と焼き魚特有の香りが鼻孔をくすぐる。


 しっかりと火を通した秋刀魚を皿に乗せて、生唾をゴクリと飲み込む。


 箸を胴の真ん中にのせるだけで、香ばしく焼けた皮がパリンっと音を立て箸がスッと身に入り、力を入れなくても身と骨は綺麗に分離する。

 弾力が有り脂の乗るホクホクした身を口の中に入れると、秋刀魚の凝縮された甘みと旨味が口の中で広がり私は恍惚な表情を浮かべた。

 次は皮を付けて頂く。皮と身の境には旨味成分が多く、噛む度に皮のパリッとした歯ごたえと身の旨味が混ざり合い何とも言えない味へと変化する。

 忘れてはいけないのが、内蔵であろう。新鮮な内臓は格別に旨い。少し苦味もあるがそれが逆に身の濃い味を口の中から綺麗に取り除いてくれる。


 幸せな時間はあっと言う間に過ぎ、皿の上には頭と骨しか残っていない。

 私は箸を置いて手を合わせる。


 「ふぅ……ご馳走様でした」

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