うひょひょの鰐部さん

 「うひょひょ~!」

これは鰐部さんの口癖。風貌といい、言動といい、まったくもって会計士らしからぬ人物であった。私が鰐部さんに出会ったときには、すでに40歳。坊主で、細身、銀縁のメガネ、クタクタのスーツ、そして何といっても靴が個性的!黒の皮靴なのだが、穴があいているのか、茶色のガムテープで補強してあるのだ。堂々と履いているところが、鰐部さんらしい。


 当時鰐部さんは、マネージャーという管理職にあり、管理職には1人1つ机が割り当てられている。鰐部さんのデスクは一言でと言うと、「ごみ集積場」。本やら雑誌やら、メモ用紙やら、菓子パンの袋やら。。。今にも崩れそうな、どこで作業するのでしょうかという状況であった。しかも、普段の荷物も自分のカバンだけでは収まらないようで、事務所にある監査調書を持ち運ぶための黒カバンがあるのだが、その黒カバンを拝借してマイカバンにしているのである。そのため、監査現場の集合時には、「うひょひょ~!」といって両手にカバン状態で現れるのである。


 鰐部さんの事務所での勤務の日は、きまって愛妻弁当なのだが、これもまた個性的!容器はスーパーのお惣菜で使われる薄いプラスチックの容器で、輪ゴムで止めてあるのだ。蓋が透明なので中身が見えるのだが、容器一面の白ご飯に、小梅1個、コロッケ1個がデーンとのっている、シンプル イズ ベスト!といった感じのお弁当。それにみかんが1個、以上。奥さんを「はなちゃん」と呼んでいて、はなこさんか、はなえさんか分からないが、「はなちゃんの手作り弁当なんで」といって嬉しそうに食べるのである。いつもこの光景を見ながら、どんな奥さんなんだろうと想像するのである。


 監査には、状況により1人でクライアントへ行くこともあるので、個人個人で予定がバラバラである。そのため、誰がどこへ行っているのか、当時は把握できていないことも多かった。鰐部さんもよく1人で出かけることが多く、夜19時過ぎにフラフラっと事務所に帰ってきて、パソコンを取り出し、何やらせっせと入力をしたかと思うと、「うひょひょ~!」とニンマリして急に片付けて帰っていく。ほんとに不思議な人である。


 仕事で一緒になることは数えるほどであったが、現場で一緒になると、

「頑張っているようですな。私が若いころは、いろんな先輩がいろんなことを言って私も鍛えられましたぞ。うひょひょ~!」

といって、ニヤッとするのである。


 あれから鰐部さんは本部へ出向となり、会うことはなくなってしまった。本部でもあの風貌を維持しているのか、「うひょひょ~!」は健在なのか、面白個性の1人であることに変わりはない。


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