タカビーな高見さん
会計士シリーズ初の女性登場!監査法人の職階で一番上位にいるパートナー(代表社員)と呼ばれる一番お偉い方々。その中でもごくわずかな人数の女性パートナーの1人に高見さんがいる。
パートナーになるには、様々な勢力争いをくぐり抜け、その時々の力を持ったパートナーに気に入られ派閥に属し、地道なカバン持ちやゴマすりなど涙ぐましい(?)努力を経て、晴れてパートナーに昇進するのである。※あくまで私見でございます。
高見さんも、激しい競争を勝ち抜いたひとりである。しかも、東大卒の美人、絵に描いたような非の打ち所がない人物なのだ。世の中、こんな不平等があっていいのか、というほど全てを持ち合わせている。
そんな高見さんは、
「あなた、どこの大学なの?」
「○○大学です。」
「そんな大学あるの?それって、大学なの?」
と真顔で平然と言うのである。
国立大卒の会計士であったとしても、
「高校はどこなの?」
「○○高校です。」
「そんな高校から国立大行けるの?信じられない!」
と驚かれるのである。
私は田舎の進学校、三流大学卒なので、相手にもされないだろう。きっと、
「はぁ?それは学校ですか?日本ですか?」
と言われるのが関の山である。
そんな高見さんが、春先にスキー旅行で、足を骨折する大怪我で1ヶ月あまり入院したことがあった。ずっとベッドの上で暇だったので、英語の勉強して過ごしたら、1ヶ月でTOEIC満点だったという。ご丁寧に周囲に報告をしていた。
高見さんは、名前を「薫(かおる)」というのだが、実業家の旦那さんとの間に、一人娘がいる。その娘さんに「薫子(かおるこ)」と命名しているのだ。「薫(かおる)」と「薫子(かおるこ)」。どれだけ自分が好きなのか!と驚いた。よっぽど自分に自信があるのだろう。
何を取っても秀でている高見さんであるが、一度だけ悔しそうに唇をかんでいたエピソードがある。
数年に一度、監査法人は金融庁や会計士協会といった外部機関から適切に監査が行われているか調査を受けることになっている。さらに監査法人内部においても、任意でクライアントが選ばれ、そのクライアントを担当している監査チームに対し所定の監査手続きが適切に実施されているか調査を受ける。
ある年、監査法人内部の調査に高見さんが率いる監査チームが対象となったことがあった。調査員は本部から送られてくるのであるが、この時は、対象とするクライアントが海外グループ会社を多く持っている企業ということもあってか、外国人の調査員だった。
調査当日、会議室で調査員と対面した高見さんは、いつものすごいでしょ私的な自己紹介をした。
「まぁ、付け加えれば、私は東大を主席で卒業して在学中に会計士試験に合格しまして、パートナーには同期で一番早く出世いたしました。」
とご自慢話をして自分をアピールした。ところが、その外国人調査員は、
「私は、ハーバードを飛び級で入学、卒業して、ニューヨーク州の弁護士資格とUSCPA(アメリカの会計士資格)を取得しました。東大って世界大学ランキングでは40位?50位?でしたっけ。ハーバードには、在学中に起業したり素晴らしい発見や研究発表をする人がたくさんいます。」
高見さんは、いつもの自慢が通じない状況を察知して眉間にしわを寄せた。調査員はさらに続けて、
「私のまわりにいる優秀な友人たちは、どこの大学を出たとか、早く出世したとか言いません。自分はどんな研究をしてどのような役に立つのか、自分はこんな仕事をしてみんなに便利なものを提供しているんだとか、今を輝いて生きている。しかし、あなたは昔の栄光の中でしか生きられない。みんなにチヤホヤされたいだけだ。」
高見さんは、唇をかんで図星といった感じで何も言えずに下を向いている。私は思わず心の中でガッツポーズをした。
この日を境に高見さんは、初対面の相手に学歴を自慢することも、相手の経歴にケチをつけることもなくなり、「タカビ―な高見さん」から「腰の低いの高見さん」になったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます