大裁判!大判決!大逃亡!

「松戸菜園と小鞠幕太を東京メカ地検特捜部はロボット虐待の容疑で起訴。二人の身柄はメカ検察庁に移送されました」

護送車の窓を無数の望遠レンズが狙っている。防弾ガラスは赤外線すら遮断する特注品で被写体の輪郭すら捉えられない。ロボ記者は舌打ちをした。

「なんでこうなるんですか?」「君が三権分立とか余計なヒントをいうから、うっかり手が滑って造ってしもうたわい」

捕まる寸前に二人はこんなやりとりをしていた。小鞠はがっくりとうなだれていたが博士に絶望の二文字はなかった。代わりに必殺のパワーワードがある。

彼は揺れ動く車内で言い放った。

「坊やたち、が過ぎるぞ。大人にこんな事をしていいと思っておるのか?」

両脇のロボ警官がギクッと反応する。

「でも博士はマッドサイエンティストでしょ?」

「悪の科学者は倒さなくちゃいけないんだ」

彼らは良識回路に従った。それも松戸菜園の想定どおりである。

「そうか。しかしそれは番組内部の話じゃ。お外でやったら監禁罪かんきんざいという罪で捕まってしまうのじゃ」

博士は言い聞かせたが「わるものにはだまされないぞ!」と反論された。

「むう…しかたない。【おかあさんにいいつけるぞ】」

殺し文句一発で警官は機能停止した。制御を失い蛇行する護送車。

「こんなこともあろうかと、じゃな」

入れ歯を外し掌に嵌める。そして遮蔽版に正拳突きを喰らわせる。

バァンとガラスが砕け散り運転席が垣間見えた。ゲシゲシと破片を突き崩し運転席からロボを蹴落とす。そしてハンドルを奪うと先行する小鞠の護送車と距離を詰める。左車線から追い抜きざまに何度も何度も体当たり。助手席の窓を入れ歯拳でカチ割った。

「やめなさい。公務執行妨害で…」

警官が身を乗り出す。

松戸菜園の強烈な右フックが一撃で黙らせた。

そして風通しが良くなったところで最大奥義の禁句をお見舞いした。

「いいかげんにしろ。【おかあさんがかなしむぞ】」


空間が砕けた。

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