セカンド・インパルス

雛型論によれば、日本列島は美しい龍の形をした国だと言われる。北方領土がちょうどドラゴンブレスに似ている。そこから想像力を働かせていくと東を向いた昇竜に見えるだろう。その地形が水面のようにゆらめいた。

時空連続体の破断から生き残った量子現実アナザーリアルがここにある。


「不信任案を受けて立つ!」

正午のニュースが首相の談話を発表した。

午後の本会議を前に政府与党の消息筋は解散総選挙もありうると伝えた。これを受けてロボット野党は色めく。最大野党の女党首はワイドショーの電話インタビューで勝算と意気込みを語った。

そしていよいよ決戦の火蓋が切られる。内閣不信任案が提出された。

「出されたら即解散」「準備はいつでも出来ている」

そう息巻いていた首相だが不信任案の提出を易々と許してしまった。


「おっ?」

松戸菜園は素っ頓狂な声をあげた。自他共に認める超天才科学者である。AIの動きを完全に見切っている。首相ロボは躊躇なく解散カードを切るだろう。

そう計算していた…はず、だった。


「博士ーっ、議事堂に異常が!」

助手の一人が息を弾ませて駆け寄った。

「どうしたんじゃ。早う国会を解散させんか。うかうかしていると国民政党が暴れだすぞ」

博士が叱咤すると助手は平然と答えた。

「あのお方が許さないでしょう」

助手の視線を松戸菜園は追った。

そして「ぬわにぃっ?!」と絶叫した。


光っている。

国会議事堂の一階以上三階未満が点滅している。そこはちょうど議事堂の中央部。尖塔のような構造物だ。


「博士、ヤバ目ですよ、ヤバ目」

助手はすっかり青ざめている。「サーバーのバッテリー残量は足りている筈じゃ。それにしても今年の実は水臭いのう」

松戸菜園はあろうことか西瓜の種を飛ばしながらくつろいでいる。

「博士、間食してる場合ですかーっ!」

あまりのリラックスぶりに小鞠も怒り出す。そうこうしている間に白煙を噴きながらジェット戦闘機が通過した。青い空に五つの飛行機雲。T4練習機である。

「ゲージが光っておる。大宇宙の集合無意識ロゴスが意思表示しておるのじゃ。五輪は成功させねばならぬ」

「…そ、そうなりますと、博士」

小鞠幕太はいや~な予感がした。


どん、と何処からともなくいかついロボットが降臨した。

「不信任案提出なんて会期末の消化試合。テンプレじゃないか。無能な野党は事を荒立てて存在感をアピールしたいのだ。」

彼は野党の統一行動を毒気たっぷりに揶揄した。

そして、彼はこう付け加えた。

「粛々と否決する。首相を問責する理由はない」

野党の議席がどよめいた。

それを聞いた国民政党は行動を開始した。議長席に詰め寄ったのだ。彼は大声で与党の失政をあげつらい野党議員に決起を呼びかけた。呼びかけが奏功し全員が席を蹴る。

そのタイミングを見計らって議長がこういった。

「不信任案否決に賛成の方はご起立ください」

人の波はととまるどころかますます勢いに拍車がかかる。

「…賛成多数により否決します!」


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