総辞職か?解散か?

風雲急を告げるロボ政局。運命の鍵は「れ(大人の事情で自粛)」おじさんこと首相が握っていた。衆議院に小人サイズの議員ロボがぞろぞろと登院している。「どうして他の先生方はモブなんですか?失礼ですよ」

政府高官小鞠幕太は眉を吊り上げる。

「お手頃価格にせいと無茶ぶりしたのは君らじゃないか」

松戸菜園テスト研究所としては知育玩具「見て触ってAIと一緒に親子で学べるこども銀行セット」の爆発的ヒットを受けてしぶしぶ開発しただけなのだ。子供の頃から政治に親しんでもらおうと政府は欲を出した、そして口も出したが開発予算かねは出さなかった。博士はしかたなく主要人物以外のモブを縮小してコストを削った。これでも採算ラインすれすれである。

「そんなことを言ってもせめて与党執行部役員と主要会派だけは…」

「だったら予算をケチるな。半導体を量産すればするほど安くなるムーアの法則というものがあってだな」

松戸と小鞠が口論している間に記名投票が始まった。国会中継さながらにライブ配信される本格派である。スパコンは二番煎じがいいでおなじみの最大野党党首が微動だにしない。「牛歩戦術しょうエネモードもついて環境にやさしい」、と博士が自慢した。

「野党はずっと休んでるじゃないですか!」と小鞠も手厳しい。スマホ画面が騒ぎ始めた。国会内の特設スタジオからVRキャラがワイドショーを発信するという凝りようだ。

「野党は相変わらず政府の脚をひっぱってますね」

与党寄りのMCが振ると落語家の桂四十九日が青筋を立てる。「国民は激おこMAXですよ。絶対に野党に入れちゃいけません」

首相はとうとう業を煮やして投票締め切りを宣言した。野党議員から怒号が巻き起こり投票箱が乱闘の渦に巻き込まれた。

首相は臆せず勅書を取り出し…。

その時、世界が分裂うごいた。

「やりおった!」

博士がガッツポーズする。首相はついに天下の宝刀を抜いた。

「衆議院を解散する!」

「万歳!バンザイ!!ばんざーい!!!」

「この野郎!」「今のは無効です。違憲行為だ」「ファシズムの再来だ」

めいめいが好き勝手なことをいい、拳で語り合う。そのどさくさに紛れて国民政党が走り出した。

「国民政党せんせい!投票箱なんか抱えてどこへ?」

小鞠が気づき、追いかける。その腕がグイっとつかまれた。

「逃げるんじゃ!爆発するぞ」

博士が必死に制止する。

「ば、爆発って?」

キョトンとする彼に博士は「あれを見い」と促す。キュラキュラキュラと断続的に軋む音。4サイクル水冷ディーゼルエンジンの排気

「なんで戦車がやってくるんですか~」

1/72スケールの10式戦闘車両がスタジオの残骸を踏み越えて集結する。

「よい子の緊急事態条項セットを発注したのは…」

「ないない!そんなの頼んでません」

小鞠はぶんぶんとかぶりをふる。

「はて?そうじゃったかのう。いや、儂の趣味か」

「どっちなんですか?!」

「忘れた!最近、認知症が激しくてな」

困った狂科学者である。それはともかく玩具の空自が二人を救出しに出動した。V-22オスプレイのミニチュアがワイヤーロープを垂らす。博士は手早く小鞠に巻き付けると軽やかに地面を蹴った。国会議事堂サーバーに穴が開き、国民政党が目から光線を放っている。それは戦車に引火し爆発炎上させた。砲搭上面の12.7ミリ重機関銃M2が国民政党に集中する。

「いかん、高度をあげろ」

松戸菜園がオスプレイに命令する。

「博士~子供向けの玩具に実弾を搭載してどうするんですか~」

すぐ横で小鞠が困り果てている。

「安心しろ。みねうちじゃ。それより、この国はいよいよお終いじゃぞ」

「おしまいって、博士ェー」

カッ――。

彼の嘆きは太陽よりも眩しい輝きにかき消されていった。


そして、世界が反転した。

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