最終兵器発動
「ずもももも…」
国民政党は不気味な音をたててくすぶっている。
「博士。今のうちに何とか手立てを打てませんか? ほら、あの青い未来のアイデア商品販促げふんげふんは尺の都合で」
木っ端役人は急かした。
「あまりそれを言うな。エブリスタ運営は地獄耳じゃ。こんなこともあろうかとやっつけアイテムは準備してある」
松戸菜園はAI議員を止める最終兵器を繰り出した。
それは情報工学の分野でキル・スイッチと呼ばれている。暴走したAIに誰が責任を持つのかという懸念事項はAIの自主性を奪う逆説として議論されてきた。喧々諤々の末に電源スイッチ的な強制シャットダウン機能やむなしということになった。松戸菜園はそれに反対したのだが抑止力の必要性は理解していた。博士は研究所に連絡して助手たちに大掛かりな機械を運ばせた。それはどうみても国会議事堂の百分の一モデルであった。ご丁寧に首相官邸まで付属している。その傍らにぎょろ目の老人が佇んでいる。
「こ、っこれは。首相?!」
役人が仰け反る。博士がスイッチを入れると首相はぎこちない動作で色紙を取り出し毛筆書きした。「れ(諸事情により自粛)」
すってんころりんと役人が転げまくる。
「そんなに感動せんでもよい。これは本人ではない」
博士はもう一体。どこかで見たような女性議員ロボを起動した。
「性能は言うまでもない」
松戸菜園の評価通りその女は国民政党の言い分を首相ロボに伝えた。
「とっ、党首討論」
役人は絶句する。首相ロボはふんふんと聞き流していたが一言。
「政府は国民の意見を真摯に聞いている」
そのテンプレな答弁に女性議員はブチ切れ、問責を連発した。首相ロボは閣僚ロボ、政務次官ロボ、専門家ロボを国会議事堂から取り出して応戦する。
とうとう女ロボはヒステリーを起こした。
「こんな無責任な首相にとてもこの国は任せられません。内閣不信任決議案を提出します」
不信任案キター。
「よろしい。解散総選挙だ」
その発言を聞いて博士は喜んだ。
国会が解散すれば国民政党も議席を失う。機能停止する。
「どうしてそうなるのですか?」
野暮な木っ端役人の問いに「表層崩壊モデルじゃ」と博士はなげやりな返答を返す。極限分布は未来永劫、盤石ではない。豪雨が斜面に土砂崩れを起こすようにイデオロギー的に傾斜したモデルはストレスを貯め込んで一気に壊れる。
「そうならないように植林して根を張り巡らせるのじゃ。それが土砂を支える。しかし、彼らのように党利党略、政治の為の政治を行う議員を儂はあえて持ってきた」
「国民に根差してないというのですか」
「そうじゃ、今の国民政党は欲に目がくらんでおるから…」
博士はAI議員のステータスウインドウを示した。案の定「権力、金、名誉」の数値が振り切っている。「公私混同フィルターが濁ってあすこの茶番劇と本会議の区別もできんようになっておる。あれが解散すればAIも自分が失職したと誤認識するはずじゃ」
「なるほど、そういうからくりでしたか!」
木っ端役人は国会議事堂サーバーの周辺を見守っている。女党首ロボと首相のやり取りが終わり、内閣不信任案が提出された。
「そうじゃ、今に見ておれ。いよいよ始まるぞ」
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