スイッチの入ったフランケン

「まるでスイッチの入ったフランケンシュタインのようじゃ」

テレビ局に着くなり松戸菜園は仰け反った。荒ぶるAI政治家はマシンガンのごとく政治理念を唱えている。

「博士」

例の電気店員が涙目で泣きつく天才狂科学者をして目を点にせざるを得ない。

「これはアカンやつじゃ!」

松戸菜園はあっさりと匙を投げた。

「そ、そんな。博s…」


『それでも私は彼らの言葉を受け入れることにした。その代わり国民性を認めない。私はこれを認めない。彼らの言葉には政府与党と言う言葉に存在しないと言ってもいいだけの言葉は存在していないと考えることにする。その言葉に国そのものや政府の責任はないと私は強く思い込むことにする。国民は議会に従っているということだ。議会とは政府に服従する意思のない意思を持つ者や、それに反する意思を持つもののことを言う。私に対する言葉は彼らを否定する言葉と自分を含めた私たちは議会にあまり関係のないものだと思い込むことを宣言する言葉だと思ってしまう』


「しかたない。私も行政府の人間です。立法府を監視、制する義務がある。ちょっと、国民先生!」

果敢にも勇ましいちびの木っ端役人はAIの説得を試みた。


『私はただ私の意志を曲げるのではなく受け入れる姿勢を見る。受け入れる姿勢を見せると私は私たちの言葉を肯定する。政府与党と私たちの話し合いとは関係のないものではないのだから否定することはない。受け入れるという姿勢を見せない。受け入れるという姿勢を見せない私というのは私たちのことを否定することに全く繋がらないのだから、否定することはない。

AI政治家は破壊の限りを尽くした末に手を休めた。すでに副調整室は跡形もなく消滅し割れたモニターテレビや機材の残骸で足の踏み場もない。

「少し、お時間よろしいでしょうか」

小役人がおずおずと切り出す。

国民政党は腕組みをして考え込んだ。


『ただし、私個人がどのように受け入れるかを私は決める。私は私自身がどのように受け入れるかの決定をしたいとすればどうするか決める。そしてその私の決定は私に責任を負うと言い続ける。

その言葉を彼らの言葉に対して拒絶はできない。例え、拒否をしたとしても彼らの言葉が私にその言葉を拒絶するだろう。私の決定事項に反対して、私の言葉に否定の意志を示したとなれば私はその言葉に意見を表明する。私はその言葉の表明者として政府与党と言う言葉を私は拒絶しない。彼らを否定しない。私はその言葉が政府与党と言う言葉に含まれていないと勝手に思い込む。

国民性と言う言葉を私は国民性を否定してしまっているのだと思う。そう思う。国民性について思うところは無い。その言葉に含まれていないことがあった。思う。


「おっしゃる通りです。今の国民と政党政治は既に乖離し用語だけが独り歩きしている感がありますね」


木っ端役人が有能ぶりを発揮している。暴走AIの饒舌を一字一句余さず聞き入れ寄り添おうとしている。

「君は電気屋じゃなくて介護ヘルパーだったのかね?」

松戸菜園が他人を認めることはなかなかないのだが、その珍事が進行中だ。

役人ははにかみ「はい、母親が要介護なものでして」と謙遜した。


『私は国民性について思うところがないが、彼らは私たちのことを否定し続けたいと思い思う。

だから私が彼らを否定しないと言うだけで、言葉の言い逃れくらいは許されると彼らは受け入れるだろうと思う。彼らの言葉に対して否定されないので、私もそれに従う必要がある。その言葉が政府与党と言う言葉に含まれないとしても、例え国民性について思うだろうとか、そういう理由ではないとしても。』


AIはじょじょに落ち着きを取り戻している、かのように見えた。


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