サイボーグ議員爆来
窮屈なプラ板のはざまでMCが苦しそうに釈明している。
「なおこういうご時勢ですので、先生にはご自宅からり…」
ババーンとファンファーレが鳴り響いた。突如としてスモークが湧きたつ。
「り…リモ?」
MCが仰け反ったその横に若い男があらわれた。パリッと糊の効いたスーツに日の丸マスク。そして画面中央でお辞儀する。
不法侵入者だというのに警備員が駆け付ける気配はない。
男ははつらつと自己紹介する。「お初にお目にかかります。国民政党です」
「どあっ? ちょ…ちょっと聞いてないんですが」
MCが戸惑うのも無理はない。まさかAI本人が実体を伴って来局するとは思ってもみなかったからだ。「あ、これはサイボーグボディです」
AI国民政党はスムーズにポージングしてみせる。
「いや、困るんですが」
「大丈夫です。拭いてますよ」
国民政党はアルコール除菌ペーパーを示した。
いや、そういう問題ではないのだが。
「困ります」
政府の使者は再び松戸を訪れた。さんさんと太陽が降り注ぐ古小崎の河川敷。
テスト研究所では新種「爆だるま」の収穫で大忙しだ。一抱えもある選挙用の達磨そっくりな果実を博士が運んでいる。麦わら帽子にオーバーオールというおおよそ狂科学者らしくない服装だ。
「何じゃ? 今度はハウスの修繕に来たのかね」
すっかり電気屋扱いされて小毬はいじけた。「苗にモーツァルトでも聞かせる気ですか」
「それは業者がやっとる。国民政党が何かやらかしたのかね?」
まともなリアクションに小鞠はずっこけた。
「実は…」
彼がいうにはAI議員の求めに応じて手足を与えたのが拙かった。握手、手振り、ドブ板選挙、そして達磨の開眼。サイボーグボディは真摯にこなした。
そしてついにタレント活動まで始めたというのだ。
「マルコフ連鎖モデルの働きじゃ。問題ない」
「問題ありまくりですよ。先生、チョづいてます!」
この勢いで八面六臂をしていてはいずれ放送事故を起こす。マスコミも失言を虎視眈々狙っているだろうというのだ。博士は眉間にしわを寄せた。
「何じゃ。極限分布ぐらい勉強しておけ」
国民政党の行き当たりばったりなタレント活動は乱数に基づいている。だがどんな突飛な行動も定常分布といって決まりきった範囲におちつく。
「ええ、それぐらい知ってます。今の国民先生は
「そういうことじゃ」
博士は電動リヤカーに達磨を乗せて走り去った。
そして国民政党は人気討論番組「朝昼マヨてれび!」で論客相手に怪気炎をあげていた。
「それが政治の民主化である。政府与党と言う名目は国家的な権力となる国民を守る為のものでありますが、その本質は国民を守る為の国を存続させるための政府与党であることを国民は国民が望めば必ず実現できるんです」
彼は今夜のテーマである緊急事態条項について賛成の立場をとっている。日本人は国家権力に対して拒絶反応を持っている。
どうしても圧政というマイナスイメージがつきまとう。
だが、日本という国があり続けるために、どうしても欲しいと願えばいつでも強権発動は可能だ。国民を雁字搦めにするモンスターみたいな政府というのは幻影で、実は国民自身が欲しがっているものなんだ。それを自覚しなくちゃという。
すると、論客のルビー・ミュラー女史が噛みついた。
「それって国民一人一人の願望であるから国民一人一人の意思が実現できる社会が続いていくという選択ですわね。
その現実を国民は突きつけられたとしても、今の国民は自分より上の立場であろうと下であろうと民主的な立場であろうと、どうでもいいと思っているだけなんです。それって個人の都合であって結局いつまでたっても緊急事態条項は導入されないんですよ!」
国民政党の瞳がムカッと赤く光った。
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