満点の星空に願いを込めて
詠月
満点の星空に願いを込めて
それはいつものように、ベッドに座って本を読んでいた時のこと。
キリがいいところまで読んで伸びをしていて。
外の異様な明るさに気付き僕はカーテンをそっとめくった。
「わあ……」
興奮して思わず声を上げる。
そこには満天の星空が広がっていた。
「すごい、綺麗……」
窓を挟んでいてもわかるその輝きが、夜の病室には少し眩しい。
僕はしばらく動けずにいた。
その星空に目を奪われたまま戻ってこられなかった。
「……そういえば、久しぶりだな、星を見るの」
昔は星が大好きだった。よく家のベランダから家族揃って見ていたりしていて。
けれど今ではそれは不可能となってしまったから。
今日は珍しく体調が良くてこんなに遅くまで起きられたけど。
いつもは辛くなってしまって、星の見える時間に起きていたことは数えられるほどだった。
だからすごく久しぶりだった。
「変わらないなぁ……」
星空は、変わらない。
そりゃあ家から見るのと病院から見るのでは方向とかは違うと思うけれど。
“星が輝いている”
そのことだけは変わっていなかった。
まあ、変わっていたら大問題だけどね。
星の輝きに心が和らぐのを感じる。
やっぱり、まだ好きなんだな。
見ているだけで落ち着けて、こんなにも。
こんなにも、明るい。
気づけば、僕は泣いていた。
ポロポロと温かいものが頬を流れて留まることを知らない。
……僕にも、好きなものが残っていた。
残っていたんだ。
「っ……はは」
嬉しい。
僕はまだ生きている。
そう実感できた。
「見たいなぁ」
昔のように、外で見てみたい。
この星空を。
窓越しではなく、直接見上げてみたい。
僕は、少しだけ……ほんの少しだけ窓を開けてみた。
とたんに入ってくる外の匂い。夜の匂い。
僕はスウッとそれらを吸い込んだ。
いつまでもこうしていたい。
涙を拭うことも忘れて僕は夜に夢中になった。
持ち上げた手をそっと外に出してみる。
冷たい。ひんやりとしていた。
少し冷えたかな。
そう思い急いでカーディガンを羽織って戻ってくる。
「不思議だな……今日は全然平気だ」
今までが嘘のように体調が良かった。
「……星のおかげかな?」
なんて呟いて小さく笑う。
……もしも。
もしも本当に星のおかげなら。
僕の願いも叶えてくれるかな。
「あ、そうだ、まだ夜の薬飲んでないや」
ハッとして僕は窓を閉めようとして。
もう一度空を見た。
眩しいくらいに輝いている空。
「――……」
言葉には出さずに軽く目を閉じて。
すぐに目を開けて今度こそ僕は窓を閉めた。
――いつか、また外で見られるようになれますように。
満点の星空に願いを込めて 詠月 @Yozuki01
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