TSしちゃったんだけど、俺の彼女は受け入れてくれるようです。
エンゼ
目が覚めると──
『後天性性転換症』、通称『TS病』と呼ばれる病気がある。症状は病名通り、ある日突然自信の性別が男なら女へ、女なら男へと変化してしまうという感じだ。
近年見つかった比較的新しくマイナーな病気であって、現在治療法は確立されてない。だが、性別が変わるというだけで他に症状は無く、命の危険は無い。
この病気の発症例は世界でもかなり少なく、何が原因でどうして性別が変化してしまっているのかは不明のままである。
更に、発症した人達に何かある共通点が存在する、というわけでもない。ある人はアメリカで、ある人はフランスで発症したという例が報告されている。
研究は進められているようではあるが、発症例が少ないため原因解明には相当な時間がかかるだろうと言われているらしい。
一説では、その人の持つ遺伝子に何か異常があるのではないかと言われており、研究もその方向で進んでいるそうだ。
……まぁ、ここまでご丁寧にとある病気に対して説明を行ったわけではあるのだが、これにはちゃんとした理由がある。
「俺、女になってるぅぅぅ?!!!?!」
……俺がその病気になってしまったからだ。
いやどうしよう、マジで。
──────────
と、とりあえず現状整理だ。俺の名前は神崎優。多分どこにでもいるようなチョイボロなアパートで独り暮らしをしている普通の男子高校生だ。ただ...顔が少し怖いらしいから友人はあんまりいない。その中でも目付きが特にヤバいらしい。
…そういや、男友達は一人だけだな…改めて考えると寂しいな、俺。ちなみに、俺の顔のことを教えてくれたのはそいつだ。
そして昨日まで俺の性別は男だった。俺は男だった……んだ。昨日寝るまではしっかり男だったんだが...朝になったら女になってた。
今俺は自宅の鏡で自分を見ているんだが...そこには俺だと思えない女が写っている。
そこらの1000円カットで雑に短くしてもらってた黒髪は何故か黒ロン毛に、たしか175cmくらいあった身長はぐんと下がってクラスの女子の平均くらいに、更に顔つきは...割と整っているのだが、やはり目付きの悪さは治ってはないようだった。
「どういうことだよ……」
思わずそうつぶやくが、耳に入ってくる音はいつもの低い男の声ではなく、女子の持つ高めのアルトボイスであった。
何度も自信の頬をつねり、この夢のような状態からの脱出を試みたが、頬は痛くなるだけであった。
ふと、自分の手を見る。男の時のようなゴツめのある面影は最早なく、女子のようにスベスベのうぶ毛もあまり生えてない手だった。
ここで、俺は怖くなった。
自分が自分で無くなってしまった感覚。俺は俺であるはずなのに身体は俺でなくなってしまったという変な感覚。
「俺は……誰だ?」
怖い。俺は本当に俺なのか? もしかして最近の小説みたいに俺は死んでいて、魂が別の身体に移ってしまったのか? 今さっきこれが病気であると調べて分かったはずなのにふとそう考えてしまう。
なんとなく一人でいるのが怖くなった俺は自分のスマホのメッセージアプリを開き、とある人物にメッセージを送った。
『助けてくれ』
シンプル。逆にシンプルすぎるかもしれないが、俺の内心を表すのには十分だった。もちろん精神的にだ。
送った時刻は午前9時26分。今日は学校は休みで何もない日だ。だからこそ相手は起きてないかもしれない。少し不安になった。
だが、想定しているよりも早く相手から返信が返ってきた。
『どうしたの? ユウちゃん』
俺のことを『ユウちゃん』と呼ぶのはこの世界ではただ一人だけ。その一人とは、俺の人生初の彼女である『秋原まこ』だ。
まことは偶然席が隣になってから交流が始まった。俺の顔に臆せず彼女は俺に話しかけてくれた。それに押されて段々と話せる関係になっていった。
そこからまぁ色々あって、俺から告白して受け入れて貰えて、晴れて恋人関係になったんだ。今では、俺は一番まこのことを信頼している。
普段は彼女から送られてくるメッセージを、今回多分初めて俺からメッセージを送った。それに反応してくれたことを嬉しく思いつつ、俺はメッセージを続けた。
『とにかく、会いたい。家に来てくれないか?』
メッセージでも彼女のことを感じれるが、やはり直接会って安心したかった。俺のこの不安をどうにかしてほしかったんだ。
こんな俺の唐突な申し出に対して彼女は、
『分かった。すぐ行くね!』
オーケーを出してくれた。まこは優しいなぁ、と思ったその瞬間、俺は「あっ……」と思わず言ってしまった。
「性別が女になったこと、伝えてなかった……」
一番重要なことを伝え忘れてしまっていた。
今からメッセージを送ろうにも、会話は既に終わっているような感じだし、おそらく彼女は今こっちに来るために色々準備をしているはず。そんな中いきなり性別が変わりましただなんてメッセージを送ったとしても「は?」と思うだけだろう。準備の邪魔をするのもなんか申し訳ない。
そして更にまた別の不安が襲いかかってきた。
───果たしてまこは女になった俺を受け入れてくれるだろうか?
───まこは女になった俺でも恋人として接してくれるのだろうか?
身体は女になったとしても、精神は男のままだ。だから俺はまこのことが好きだし恋人としていたい。
でもまこは? 別に同性愛者のことを悪くいうつもりなんか微塵も無いが、なんとなくだが日本人は同性愛に対してあまり受け入れてないイメージがある。創作ならまだしも、現実なら無理だという人が多い印象だ。
だからまこが俺と別れたいと言うかもしれない。そもそも元男の女なんて無理だと言われるかもしれない。
考えれば考えるほど負の方向に考えが引っ張られていき、もういっそのこと会わないのが正解なのではないかと思ってしまった。確かに今一人でいるのは辛いが、まこに嫌われるのはもっと辛いのだ。
そんな考えの最中、家のベルが鳴らされた。
「ユウちゃん、来たよー!」
え、早くないですかね。あかん待ってどうしよ。心の準備とか全然出来てないのに……。
「あれ、ユウちゃんー?」
落ち着け、落ち着けよ俺。ほら深呼吸だ。まこには悪いが少し待ってもらって……、
「むぅ、ユウちゃんー? 入るよー?」
あ、そういやまこには合鍵渡してあったんだっけ。いやいやそんな冷静にものを考える暇があるなら早く行動をだな……。
「おじゃましまー…………す?」
「やぁ、まこ……」
「……え」
「じ、実はだな……」
「ぅ……ぁ」
「え?」
「浮気だぁぁ!!!!!」
「ちょ待ってまこ誤解ぃぃ!!! そして近所迷惑だからもう叫ばないでぇぇ!!!」
─────────────────────────
「……ホントに、ユウちゃんなの?」
「そうなんだよ……」
なんとかまこを落ち着かせ、部屋に俺以外の人がいないかを確認した。今はまこが俺に対して俺であるのか確かめる質問し、それに全て答えきったところだ。
「ごめんね、ユウちゃん浮気なんて出来る性格じゃないのに...疑っちゃって」
「あー、まぁ男の家に行って女がいればそう考えても仕方ない……のか?」
多分誉められてるんだろう。そうであってほしい。
というか、さっきからまこの視線がずっとこっち向いてる。性別変わってんだからそりゃそうかもだが...なんか結構恥ずかしい。
「……ユウちゃん、可愛くなったねぇ」
「あんまり嬉しくないなそれ……それで、まこはいいのか?」
「? 何が?」
俺の抱いている不安に対してまこは今のところ何も言わない。さりげなく問うが、いまいち反応してくれなかった。フラレたくはないが、不満があるなら我慢はしてほしくないとも思ってる俺は、まこが敢えて何も言わないものだと思い、ついイライラして色々言ってしまった。
「俺が女になったことだよ。調べた限り戻る方法はない。だから女同士の恋人ってことになるんだぞ? 更に元男の女だ。気持ち悪いだろ? 俺は不満があるなら言って欲しいんだよ。もしそれで本当は別れたいとか無理とか思ってるなら別にフッてくれてもいいか──」
「──別れたいなんて、思ってないよ」
……え?
「き、気持ち悪くないのか?」
「悪くないよ?」
「女同士だぞ?」
「うん。というかこれから困るのはユウちゃんだよね」
「…これからも恋人としていていいのか?」
まこは最後の問いかけに微笑んで言った。
「大丈夫だよユウちゃん。私、正直ユウちゃんなら女の子でもイケるから! というか恋愛に性別なんて関係ないよね!」
「ちょ、え、えぇ!?」
右手でグッとサムズアップしてくるまこ。割とすぐ受け入れてくれたまこに予想外だった俺は戸惑うしか出来なかった。
そんな俺を、まこは優しく抱き締める。
「私はねユウちゃん。『ユウちゃんだから』好きになったんだよ? だから性別なんて関係ない。ね?」
「…あぁ、ありがとう…まこ…」
気付けば、まこの胸を借りて俺は泣いていた。嬉しかったんだと思う。受け入れてくれたから。
受け入れてくれないかもしれない、というものがあったから尚更そう感じていた。
これから多分沢山大変なことがあるけど、まこがいてくれるなら頑張れる...そんな気がするんだ。頑張らないと…な。
「あぁヤバい私のユウちゃんが可愛い……ねぇ、襲っていい?」
「…色々台無しだよ…」
TSしちゃったんだけど、俺の彼女は受け入れてくれるようです。 エンゼ @enze
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