第6話 二人とも怒られた


──ガサガサ


 少し離れたところで何かが動いた。


「た、たつや……」

「サラ!」


 草むらに隠れるように座っていたのはサラだった。


「大丈夫か! どこか怪我でもしたのか!」

「だいじょうぶ。たつや、ひとりでこわかった」


 半分涙目になりながら俺に抱き着いてきた。

俺はそっと頭をなで、なぐさめる。


「ほらみろ。迷子になったらこうなるんだ」

「ごめん。ごめんね……」


 今度は絶対に離さないように手をつないで駅に向かって歩き始める。


「にーちゃん。最後なんだ、二個百円でいいから買わないか?」


 屋台のおっちゃんが声をかけてくる。


「はい、サラの分な」

「ありがと。これなに?」

「いちご飴。中にイチゴが入っている飴だな」

「いちごあめ……。あ、あまい。おいしいっ」


 さっきまで半泣きだったサラが少しだけ元気になる。

よかった、少しだけほっとする。


 帰る電車の中で俺は二つ問題を抱えていた。

一つは、借りたカメラのレンズにヒビが入っていたこと。

そしてもう一つは……。


「たつや……。ありがと……」


 肩に寄りかかったま寝てしまったサラ。

降りる駅までまだ時間はかかる。その間少しだけ寝かせてあげよう。


 駅に着きサラをおこして家に帰る。

予定よりも少し遅れてしまった。


「た、ただいま……」


 恐る恐る玄関を開ける。


「お帰り」


 母さんに父さん。

それに……。


『サラ! 遅いじゃないか、心配したぞ!』


 サラのお父さんまでいた。


「こんな時間まで、いったい何をしていたんだ?」

「遅くなってごめん……」

「ごめんなさい。たつや、わるくない! わたしが──」

「サラちゃんはいいの。責任は達也にあるのだから。さ、お風呂に入ってらっしゃい」


 サラはそのまま母さんとお風呂場に行ってしまった。


 俺は、父さんとサラのお父さんを目の前にして、ずっと下を見ている。

花火大会の事、帰る途中はぐれたこと、探していたら時間がかかってしまったこと。

そして──


「達也が壊したのか?」


 気が付いたら割れていた。

でも、俺が首からずっとぶら下げていたのは事実。


「はい」

「ふむ……。テイラーさん、本当に申し訳ない。同じものを弁償させてください」


 テイラーさんは、壊れたカメラを見ながら電源を入れた。


「タツヤ、シャシンみてもよい?」

「どうぞ」


 テイラーさんはしばらく俺が撮った写真を見ている。

心なしか、嬉しそうにしている。


「タツヤのしゃしん、ください。それで、おけーよ」

「それでよければ」


 帰りが遅くなったり、レンズを壊したりして怒られたけど、サラと花火を見たことは一生忘れることのない思い出になった。

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