第5話 二人で行く花火大会


 電車に乗り、花火大会の行われる河川敷に着く。


「思ったよりも混んでるな……」

「たつや……」


 サラは少し躊躇している。


「大丈夫だって。ほら、迷子にならないように」


 俺はサラの手を握り、歩き始めた。


「たつや?」

「絶対に離すなよ。絶対だからな」


 フリじゃないよ、迷子センターに呼び出されるとか嫌だからな。


「はなさない。ぜったいにはなさない」

 

 二人で会場を回る。

たこ焼きに大判焼き、クレープにチョコバナナ。

射的をして、水ヨーヨを釣ってお祭りを楽しんだ。


「たのしい。まいにちおまつりならいいのに」

「そうだな。お祭りは楽しいな」


 借りたカメラでサラの写真を何枚も撮る。


「お、写真か? どれ、おっちゃんが二人を撮ってあげるよ」


 近くのおじさんが声をかけてきた。

サラの思い出に、か……。


「お願いします」


 おじさんにカメラを渡し、写真を数枚とってもらう。


──ドーーーン


「たつやとふたりのしゃしん……。うれしいな……」


 サラが何か言ったが、花火の音で聞こえなかった。


「花火が始まった! もっと見えるところに行こう!」


 サラの手を取り、少しだけ走る。

握った手は俺と同じくらいの大きさ。


 年は同じ。

俺よりも少しだけ背が高いサラ。

アイスを笑顔で食べるサラ。

おなか一杯になって満足しているサラ。

ゲームで負けると悔しがるサラ。

牛乳を飲むときにひげを作るサラ。

ニホンが好きなサラ。


 そして──


「はなび、きれい。ありがとう。いっしょにみることができて、うれしい」


 花火を見上げ、その光を浴びるサラ。


「よかったな」


 サラは真剣な目で俺を見てくる。


「たつや」


 いやでも鼓動が早くなる。

隣で、こんな至近距離で俺を見ないでくれ。


「な、なんだよ」

「わたし、かえる。もう、あえなくなる。さみしい」


 一気に血の気が引いた。

いつか来るとわかっていた。

でも、もしかしたらずっと来ないと期待していた自分もいた。


「そっか。友達のいるところに帰ることができるんだ。もっとよろこべよ」

「にほんもごはんもすき。パパもしゃしんもすき。たつやことが──」


──ドーーーン


「これにて、本日の花火大会は終了となります。お帰りの際は──」


 花火大会が終わってしまった。

サラと出かけるもの、これが最後なんだと実感してしまう。


 来るときはあんなに楽しそうだったのに、帰るときは会話の一つもない。


「しかし、帰りはずいぶん混むな……」

「た、たつや……」


 気を抜いた瞬間、サラと繋いでいた手がはなれてしまった。


「しまった!」


 気が付いたとき、俺の握っていた手は消えており、視界からサラも消えていた。

まずい、まずい、まずい……。この状況で一人の女の子なんて見つけられるわけがない!


「すいません! ちょっと、すいません!」


 周りは大人ばかり。

押しつぶされ、視界も遮られ、打つ手なし。

くっそ、俺がもっとでかければっ!


「サラッ! サラッッ!」


 はぐれて数十分、いまだに合流できていない。

少しづつ人が少なくなってきており、人に当たらずに歩けるようになってきた。

いったいどにいるんだ……。


「サラ! どこにいるんだ! サラ!」


 汗をかきながら花火会場を走る。

自分の住んでいた国を離れて、こんな広いところにたった一人。

もし、もしもサラの身に何かあったら……。


「サラッ! いないのか!」


 わき腹が苦しい。息が、続かない。

でも、走ることをやめる訳にはいかない。

俺はサラの事を──。


 いつの間にか、サラと花火を見ていた近くまで来てしまった。


「サラ……。いったいどこに……」


 さっきまでサラと一緒に花火を見ていた河川敷。

もう、周りには人影がない。


 俺は思いっきり息を吸い込む。


「サァァァラァァァァァ!!」


 一体どこにいるんだ……。

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